国立能楽堂でお能「姨捨(おばすて)」を見ました。山中に捨てられた老女が見せる舞。にじみ出る悲嘆、悔恨、怨嗟、諦観。
設定として意外だったのは、宗教者が出ないことです。老女と会うのは都の者。旅僧のように供養をしてくれず、最後は見捨ててさっさと引っ込んでしまう。その代わりと言えるのは、月でしょうか。中秋の名月の光が終始舞台に降り注ぎ、老女の「執心の闇」を照らしている。ただし月は満ち欠けがあり、世の無常をも示しています。
『楢山節考』のように身内は登場しません。捨てられた経緯はアイが語るのみ。前場では老女の出自が分からず、中入りで説明があって、後場では同情すべき相手に変わる。でも凡人にはいかんともしがたい。で、残された老女は姨捨山になったといいます。
詞章には仏教的な要素が満載です。〈しかれば諸仏のおん誓ひ いづれ勝劣なけれども 超世の悲願あまねき影 弥陀光明に如くはなし さるほどに 三光西に行くことは 衆生をして西方に 勧め入れんがためとかや 月はかの如来の 右の脇侍として 有縁をことに導き 重き罪を軽んずる 無上の力を得るゆゑに 大勢至とは号すとか〉。このあと極楽の描写が続きます。三光は日・月・星の光。勢至菩薩は月の本地仏。
シテはゆっくり舞台を回る動作を繰り返します。太鼓が威勢を増すのではなくしっとりした脈動のために使われているのが印象的。さしてドラマを見せるわけでもないのに、三老女の一つとか最奥義曲などと言われ、2時間半の上演。深い余韻に浸りました。
http://www.kamiasobi.com/works2016.html
2016年3月の講演
東京近辺で3月に開かれる講演・講座をメモします。開催日順。詳細は各主催者または会場にお尋ねください。(3/1更新)
- 『摂大乗論』に学ぶ
日時:3/10 19:00
会場:青松寺観音聖堂
講師:竹村牧男
主催:青松寺
- 「同行二人」発刊記念講演会
日時:3/19 13:00
会場:川崎大師教学研究所講堂
講師:小池満紀子
演題:浮世絵に見る川崎の街とお大師さま
主催:川崎大師教学研究所
- 仏教カルチャー・セミナー
日時:3/19 13:30
会場:中野サンプラザ研修室
講師:阿満利麿
主催:日本仏教鑽仰会(03-3967-3288)
- 青松護持会講座「仏教歳時記」
日時:3/19 13:30
会場:青松寺観音聖堂
講師:金子真介
演題:第8回 春のお彼岸
主催:青松寺
- 第724回仏教文化講座
日時:3/28 14:00
会場:新宿明治安田生命ホール
講師:吉永みち子「逆境から学ぶ」
丸井浩「無我の教え~対立を乗り越えるための知恵」
主催:浅草寺
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翁・竹生島・橋弁慶
第56回式能でお能「翁」「竹生島」「橋弁慶」を見ました。能楽協会主催の昼の部のプログラム。式能というのが他の舞台とどう違うのか、きっと関係者の側ではその格式などで厳然たる違いがあるのでしょうが、見る側にはあまりピンと来ません。
「翁」は前回、会場の入り口で仕事の電話などしていたばかりに開始時間に遅れて入場できなかったという因縁の演目で、今回は無事着席。荘重な翁、そのあとの三番叟の奮闘ぶりが印象に残りました。
「竹生島」は2回目。社殿には弁才天、湖上には龍神が舞い踊ります。〈もとより衆生、済度の誓ひ、さまざまなれば、あるいは天女の、形を現じ、有縁の衆生の、諸願を叶へ、または下界の、龍神となって、国土を鎮め、誓ひをあらはし…〉。女人禁制をあげつらう側と、あっさり破る側が対比され、その心の狭さを思い知らされるような展開。
「橋弁慶」は初見。「船弁慶」の同工異曲かと思ったら全然違いました。五条の橋の牛若丸の物語。弁慶が降参して従者となる。まことにたわいないお話で拍子抜けしました。
2016年2月の講演
東京近辺で2月に開かれる講演・講座をメモします。開催日順。詳細は各主催者または会場にお尋ねください。(2/1更新)
- 心を磨く正眼セミナーin東京
日時:2/11 14:00
会場:龍雲寺
講師:柴田文啓「意義ある第二の人生を」
山川宗玄「無心の一歩」
主催:東京禅センター
- 『摂大乗論』に学ぶ
日時:2/11 19:00
会場:青松寺観音聖堂
講師:竹村牧男
主催:青松寺
- 在家仏教講演会
日時:2/13 10:00
会場:大手町ビル
講師:安冨信哉
演題:悟りと浄土 他力の救済
主催:在家仏教協会
- 青松護持会講座「仏教歳時記」
日時:2/20 13:30
会場:青松寺観音聖堂
講師:金子真介
演題:第7回 涅槃会
主催:青松寺
- 第723回仏教文化講座
日時:2/22 14:00
会場:新宿明治安田生命ホール
講師:宮本雄二「中国の今とこれから」
武覚超「一千年ご遠忌を迎えた恵心僧都源信 その生涯と教え」
主催:浅草寺
「書の流儀」
出光美術館で「文字の力・書のチカラⅢ 書の流儀」を見ました。
第1章は書の多彩な表現を主に仏教関連の作品で提示。奈良時代の薬師寺経に見える楷書の歴史。理趣経種字曼荼羅の絵画的な遊戯。日課念仏のリズム感。明恵筆消息の即興的な字を見ればその内容を読み取りたいと思わずにはいられません。ここまでだけで、ひとくちに書の鑑賞といってもいかに見方が多様で、見る側が作品によって意識の切り替えを行なっているかがわかります。
第2章は頼山陽とその書風を慕った人たちの作品の対比。タイトルの「流儀」とはここらを指すのでしょう。
第3章は墨跡。前章から目を転換。〈墨跡については、元来、巧拙を問うことはなく、ほぼ人物の歴史的評価を保証とした評論や解説になっていることもその証だろう。つまり、墨跡は書家の手がける作品の対極にあることになる〉(図録解説)。好き勝手に書いているように見えて、一貫する何かがあります。それは禅味といえばいいのでしょうか。厳めしい一行書と、ユルい禅画を貫くもの。かすれも魅力のひとつ。伝尊円親王のあざやかな鏡文字と逆さ文字にうなります。
第4章は仮名古筆、第5章は伏見天皇、第6章は本阿弥光悦と松花堂昭乗。なるほど継承されてゆく書というのはこういうものかという見本のオンパレード。流儀に忠実といっても決して没個性ではなく、かえって主張が浮かび上がってくるところに味わいを感じました。
「水 神秘のかたち」
サントリー美術館で展覧会「水 ―神秘のかたち」を見ました。飲料会社サントリーを持ち上げる企画かくらいに軽く考えていたらとんでもない、テーマ追究の深さに驚きました。
水と信仰との関係——多賀社の湯立、流木で造った長谷寺式十一面観音、サラスヴァティ河を神格化した弁才天、海上交通の守護神だった瀬戸神社、同じく航海神の住吉大社、水分が転じて御子守に、祈雨と善女龍王・摩尼宝珠・孔雀明王、蓬莱山と洲浜、聖地としての四天王寺……。
目に訴える流水文様は、冒頭の銅鐸に始まり、金剛寺日月山水図屏風、春日龍珠箱の内箱外側、応挙青楓瀑布図と繰り返し登場。
圧巻は弁才天コーナーです。江島・竹生島・天川・厳島の四大聖地を挙げ、宇賀神を皮切りに蛇体の天川弁才天曼荼羅も異様。高野四社明神図の次に和歌山県博で木型と共に拝見した女神坐像。
羽黒山御手洗池から600面出土した鏡2面は絵柄が左右対称ではない和鏡。
定智筆善女龍王像は意外にも大きな図でした。印刷で見るとどうも前のめりでバランスが悪く、軸装するときに切ってしまったのではないかとも思っていたのですが、現物を見るとこの構図できっちりまとまっていました。印刷だと足元がボケていて立ち姿の力点が想像できないからかもしれません。
蓬莱や菊水といった文様の入った工芸品は、同美術館の得意分野です。数年前に拝見した谷文晁の石山寺縁起絵巻がこういう応用形で出てくるのかと感激。
サントリー美術館と、巡回先の龍谷ミュージアムの所蔵品が多いのは当然ですが、もう一館、神奈川県立金沢文庫の協力も大きいと思います。瀬戸神社や龍華寺の作品は同文庫の展示で拝見していますし、要所に称名寺聖教が配されて解説に一役。請雨経法道場指図には使う道具を青で揃えるため赤色の物は入るべからずと書かれていると。貴重な証言です。
これは展示替え後の後期も来なければ。(と思いつつもかなわず。追記)
http://www.suntory.co.jp/sma/exhibit/2015_6/display.html
2016年1月の講演
東京近辺で1月に開かれる講演・講座をメモします。開催日順。詳細は各主催者または会場にお尋ねください。(1/4更新)
- 在家仏教講演会
日時:1/9 10:00
会場:大手町ビル
講師:佐藤研
演題:悟りと浄土 イエスとその弟子たちとの場合
主催:在家仏教協会
- 『摂大乗論』に学ぶ
日時:1/14 19:00
会場:青松寺貝塚ホール
講師:竹村牧男
主催:青松寺
- 青松護持会講座「仏教歳時記」
日時:1/16 13:30
会場:青松寺観音聖堂
講師:金子真介
演題:第6回 修正会
主催:青松寺
- 死生学研究所連続講座
日時:1/16 14:40
会場:東洋英和女学院大学大学院201教室
講師:大林雅之「『小さな死』によせて」
森岡正博「人間のいのちの尊厳はどこにあるか?」
主催:東洋英和女学院大学死生学研究所
- 在家仏教講演会
日時:1/23 10:00
会場:大手町ビル
講師:下田正弘
演題:悟りと浄土
主催:在家仏教協会
- 第722回仏教文化講座
日時:1/27 14:00
会場:新宿明治安田生命ホール
講師:出村幹英「未来の国産資源「藻類バイオマス」の実用化を目指して」
竹内誠「『浅草寺日記』の世界」
主催:浅草寺
- 駒澤大学仏教学会公開講演会
日時:1/27 15:00
会場:駒澤大学深沢校舎アカデミーホール
講師:落合俊典
演題:『師子素駄娑王断肉経』等四部六巻を訳した智嚴の『楞伽経』研究
主催:駒澤大学(仏教学部)
- 宗援連第25回情報交換会
日時:1/30 15:30
会場:東京大学仏教青年会ホール
講師:田中徳雲「宗教者の使命と救済」
鈴木悠紀子「命・生活・人生・魂を守る災害支援」
渥美公秀「ネパール大地震:現状と課題」
主催:宗教者災害支援連絡会