仏報ウォッチリスト

ここは仏教の最新情報、略して《仏報》の材料をとりあえず放りこんでおく倉庫です。

 今年読んだ3冊

新聞の読書欄を真似して、今年刊行の本から心に残った3点。順不同です。普段は当ブログに特定の本の書評を書くことはないのですが、歳末ぐらいイイでしょ。
当然ながら手に取ったもののの多くは仏教書、ところが幸か不幸かその大半は職場に置いたままなので、現在自宅にある中からノンジャンルということで。いま手元にあるってことは、それだけ大切な書、これからも大切にしてゆく書なのです。

 新聞草創期当時、紙面の中心は論説であり、報道は二の次。そんな姿勢に客観報道という価値を植え付けたのが西南戦争でした。みずから従軍を志願し本営を取材する福地櫻痴、その前を横切ったのは兵士とともに砲弾をくぐってきた犬養毅……。こうして〈伝聞と私情を排除しようとする〉記者が真のジャーナリズムを確立してゆきました。
 著者は「猪飼野少年愚連隊」をめぐる傑作ドキュメント『奴らが哭くまえに』(幻冬舎アウトロー文庫)ほかの著作があるジャーナリスト。書籍を上梓されるのは久しぶりのようですが、資料を克明に読み解き、登場人物の会話を再現して構成する独特の味わいは健在。興奮しました。こういうテーマに目をつけるところからしてしびれます。

 「のだめ」効果で企画された一冊であることは想像に難くないのですが、交響曲だけを扱っているのが珍しいです。その理由は、著者が今どき珍しい交響曲作曲家だから。著者とおぼしきセンセが高校生に歴代の名曲を聴かせてレクチャーする入門的な体裁です。
 実はその紹介される曲が、ちょうど私が興味を持って聴いてきた順番と恐ろしいほどピッタリ重なっていて驚いたのです。「運命」「未完成」「幻想」「巨人」「悲愴」「ブラ1」「ブル7」「新世界」「シベ2」「タコ5」。まあ王道といえば王道なのですけど、クラシック楽器の素養がない私が誰に強制されることなくポツポツ聴いて今に至る系譜が間違っていなかったという喜びを得た1冊。
 この現代に交響曲ってのは正直言って古くささをまぬがれえないものの、じゃあ制作当時はしっくりきていたのかというと、〈ベートーヴェンの頃だってブラームスの頃だってショスタコーヴィチの頃だって、交響曲を書くっていうのはそれはそれは無謀なことだった〉そうで、だからタイトルが「夢みる…」なのです。

 主軸はスリランカ仏教徒アナガーリカ・ダルマパーラの伝記です。彼を見いだしたのがアメリカ人神秘主義者のオルコット大佐で、両名を日本に招いた立役者が講釈師の野口復堂でした。そうした背景を丹念に追いながら、知られざる明治仏教史を検証してゆきます。
 著者はかねてよりこのテーマの考察をウェブ上で公開しており、私も折にふれて拝見しておりました。というより余人が手がけない分野なので、固有名詞を検索しては結局ここにたどり着き、ご厄介になっていた次第。その内容が1冊にまとまるというので、資料として重宝することもあって迷わず購入したわけです。
 通読してみて、読み物としてこんなに面白いとはと正直びっくりしました。個性的な登場人物の魅力を見事に描き出し、そのアクさえもがいとおしく思えてきます。武器を持たない「活劇」を堪能しました。
 とりわけ興味深かったのは、彼らを迎えた日本仏教界側の反応です。オルコットは2回、ダルマパーラは4回来日しており、回を重ねるごとに冷遇されてゆくさまが、日本側の気持ちも分からぬでもないだけに印象に残ります。
 同書は最後に、ダルマパーラらの熱意がのちに世界仏教徒連盟会議の日本開催として結実したことを示し、「ユナイテッド・ブッディスト・ワールド」というスローガンを再確認して結んでいます。先人の尊い努力を私もこうして知り得たことに心から感謝いたします。


――というわけで、来年もまた良書にめぐり合えますように。