仏報ウォッチリスト

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 「漢字とつきあう」

朝日新聞の東京本社版3面に連載されていた「漢字とつきあう」が2月3日付をもって全7回で終了しました。先月に同社が表外漢字の表記を変更しまして、その背景などを説明するのかと思いきや、そういう展開ではなかったのでちょっと拍子抜け。
この連載では複数の記者が漢字検定やら戸籍といった漢字をめぐる諸相を客観的に追っています。それはそれで興味深い内容です。
最終回で石川九楊さんのコメントとして〈情けない時代になったもんです。漢字の論議が、文化的必要からでなく情報機器などの商品先行で進められる〉という言葉を紹介。じつは今回の朝日の改定意図がとりもなおさず商品先行、つまりJIS漢字という工業規格に沿うものであり、タイミングでいうとウィンドウズ・ビスタ発売に合わせたものでありました。
そう思って読むと、客観的に見える記事もずいぶん意識的に書かれていると思います。第2回では紀田順一郎さんの言葉として〈「文字は『通貨』です。名前などの異体字を整理しないと、日本語は永久に文字を増やし続けてしまう」と危ぶむ〉。同記事はこのセンテンスで結ばれているのですけど、これは本当に識者の結論に当たる見解なのでしょうか。むしろ整理されてしまうことを危ぶんでいるのではないかなあ。
第5回は辞書にない字を捜査中という話、第6回はワタナベさんの「辺」が戸籍上18種もあるという話題。いずれも紙背に、そんなことあってはならないという記者の気持ちが見え隠れ。いいじゃんいろいろあって、と私など単純に思うのですが。
その第6回によれば、検索エンジンでモリオウガイを調べると、オウの漢字の左が區と区では結果が違ってくるという。でもそれをもって統一を急げというのはちょっと方向が違うような……。これは文化うんぬんではなくソフトウェアの構造の問題でしょう。技術的なことは詳しく知りませんが、この字が検索されたらこの字も同時に、みたいなパッチを当てればどうにかなるのでは。そもそも英語圏の産物であるOSに対して、漢字の特殊性について便宜を求めることじたい無理があります。
もともと漢字表記のルールなんて一つに絞ることなどできません。ですので新聞社が一企業としての規則を設けるのはもっともだと思います。しかし、その影響力たるや凄まじいわけですから、みんなで一緒に解決してゆきましょう、という柔和な姿勢をもっと見せてくださいよ。
これは誰しも他人事ではありません。たとえば私共にとっては、お釈迦様のカの字。
しんにょうのつく漢字はいずれも、旧字体では最初の点を縦に2つ並べて打っていました。それを常用漢字では点1つに略すわけですが、常用漢字以外はそういう省略を認めないというのが、このたびの朝日新聞の方針です。でも今さら手書きで迦に点を2つ打ちますか? 時代の流れに逆らってませんかね。