主催者による紹介文に〈……久能山・日光・紀州の東照宮、また寛永寺や増上寺といった徳川家ゆかりの地に伝えられた宝物を一堂に。〉とあるわりに、仏教関連のものはごく少なく、その意味では期待はずれ。
入っていきなり鎧や刀といった戦闘道具の部屋で、なんだか気が滅入ります。でも天下泰平な江戸時代の遺産ですから、刀を鞘から抜こうとしたら錆びついて抜けない、そんな喜劇のお約束場面を思い浮かべながら鑑賞。
全体を眺めて、ちょっと面白かったのはこんな作品。
- 東照大権現霊夢像(多数)
これは家光が夢に見た祖父家康の姿を絵師に描かせたもの。狩野探幽ら腕利きが召し出され、おそらく口頭説明をもとに描かれたのでしょう。ただし、もはや神様ですからね、そう崩して描くわけにはゆきません。平服姿もまじるものの、同室にある公式な御影とほとんど構図が変わらない。絵師の緊張をよそに、指示する側は、そうじゃないよとじれていたんじゃないかなんて想像させます。
- 掃墨物語絵巻(巻下)
作品の絵柄よりも、説明文が目を引きました。〈眉墨と白粉とを取違え化粧した娘の顔に、訪れた僧が驚き逃げ出してしまう。これを悲しみ仏心を起こした娘が剃髪出家するという物語〉。その話の出どころは〈『堤中納言物語』の中にある一話「はいすみ」を下敷きにした発心物語への改作〉だそう。
- 千代姫婚礼調度(多数)
家光の娘の嫁入り道具一式。桶や長持や茶道具といった実用品なのですが、蒔絵が施されていたり純金だったりとおよそ実用的でなくて驚き呆れます。会場冒頭の武具などよりよっぽど徳川時代を象徴しているような気がしました。