仏報ウォッチリスト

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 迦の字の点

朝日新聞(東京本社発行)1月24日付夕刊12面、連載『日々是修行』の見出しは「悲しみに耐えたお釈迦様」。この迦の字のしんにょうには、点が2つ付いています。
もちろん誤字ではありません。でもこの字体が使われるにあたっては複雑な経緯があります。にわか仕込みの知識でもってここで整理してみます。

  1. しんにょうの活字体はかつて点を2つ付けた。
  2. 1949年、内閣が告示した「当用漢字字体表」で、常用される漢字のしんにょうは1点と定めた。
  3. このルールがしだいに当用漢字以外(表外字。「迦」もそう)まで適用された(拡張新字体)。
  4. 2000年、国語審議会が常用漢字表以外の漢字では拡張新字体を用いない方向を示した。
  5. 2004年、JISコードが改正され(JIS X 0213)、表外字のしんにょうを2点と例示した。
  6. 2007年、「Windows Vista」がJIS X 0213の例示字形に準拠した。
  7. 同年、朝日新聞社が拡張新字体を廃止した。

というわけで、2点しんにょうは一見すると先祖返りの表記のようで、じつは時代の流れに応じた文字なのです。(以上は小池和夫著『異体字の世界』河出文庫ならびにウィキペディアの解説を参考にしました)
ここでのポイントは、活字体では、ということ。つまり、けっして手書きでしんにょうの点を2つ打てというわけではないのです。
手書きで点の次の横棒と「く」の字にくねる部分、ここを2つめの点にデザインしたのが明朝やゴシックの活字体なのだそうです。ですから古いお写経を見ても、筆文字でしんにょうに2点を打っているものなどありません。上掲書『異体字の世界』では〈楷書フォントや行書フォントで点二つの字を作っているのはおかしなことです〉と指摘しています。
ともあれ、現在の出版界には拡張新字体がかなり浸透しています。そこへ影響力の強い大手紙がこう表記をするとなりますと、シモジモの編集担当者は困惑いたします。その字が示すお相手がお相手だけに、なおさら。