仏報ウォッチリスト

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 「松風」を見た

国立能楽堂お能「松風」を見ました。
在原行平に寵愛された松風と村雨の姉妹。須磨の浦で汐汲みをするこの二人の海女がかつての生活をなつかしむ。世阿弥は自信作だと述べているそうですが、私にはどうも長くてユルい印象。
仏教的なことだけメモしておくと、
・すべては須磨を訪れた諸国一見の僧(ワキ)の夢に現れた情景。
・ワキ「逆縁ながら弔うて」について、手元の謡曲集の注釈には〈謡曲では一般に「順縁」でない場合を「逆縁」と称している〉とあります。
・シテ「月は一つ」地謡「影は二つ」。桶に月が映っていてうれしがる姉妹。田毎の月というのを連想しますし、法然上人の歌〈月かげのいたらぬ里はなけれどもながむる人の心にぞすむ〉も思い起こします。
・シテ/ツレ「なほ執心の閻浮(えんぶ)の涙、再び袖を濡らしさぶらふ」。閻浮は閻浮提(えんぶだい)の略で、この世の意。現世に執心があって涙を流す。という物言いは、あの世の人のものだと旅僧が指摘するセリフが続きます。
・ツレ「あさましやそのおん心故にこそ、執心の罪にも沈み給へ、娑婆にての妄執をなほ忘れ給はぬぞや」。物狂いになった松風を村雨が諌める。なんだか冷静。
というように、重要なキーワードは「執心」です。まあお能に限らずドラマというものの根本テーマはたいていこれですけど。