仏報ウォッチリスト

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 源氏物語展を見た

横浜美術館で特別展「源氏物語の1000年 あこがれの王朝ロマン」を見ました。〈源氏物語千年紀に関連する東日本最大の企画展〉だそうです。
まず作品の時代背景として、日記や和歌、装束などの展示。当時の信仰を伝える品は、装飾経(法華経阿弥陀経、弥勒上生経)、経筒(藤原道長が金峯山に埋納)、経箱(中宮彰子が横川如法堂に奉納)。ちなみに仏教史を重ねてみると、源氏元年の西暦1008年は、最澄空海の活躍からおよそ200年後、鎌倉新仏教が興る200年前に当たり、同時代では源信が『往生要集』を著しています。
続いて、物語世界を忠実に描き出した絵画群。近現代までの絵画を幅広く集めます。時代が新しくなるにつれ、当然ながら色彩が鮮やかになってきます。今回のラインアップには有名な国宝・源氏物語絵巻はなく、替わりに同作品の現代の模写を展示。このへんの割り切りが潔いです。
面白いのは、そうした源氏絵の系統とは別に、作者・紫式部本人を描いた図が数多くあること。一覧表で数えると展示替え品も含め15作品。みな一様に筆を持って考えごとをしているポーズです。
そのほか、物語を意匠としてあしらった調度類や、現代語訳・外国語訳の本の表紙を並べたりと、源氏物語の展開を広く紹介。総じて、いつもモダンな展覧会をやっている同館だけに、制約にとらわれない企画だと思いました。なまじ館蔵品にこだわると、こうはいかないでしょう。
メモとして、図録のコラムの一部を引き写しておきます。(抜粋です。「…」の個所に省略があります)

源氏物語の執筆と石山寺参籠説」/伊井春樹
…謎が一つずつ積み重ねられ、南北朝期までにはまことしやかな話がまとまった。村上天皇の姫宮の賀茂神社に仕えた大斎院選子は物語好きで、…中宮彰子のもとにも…求めてきたため、この際新作をさしあげようと、紫式部にその命令が下ったのである。紫式部は…日ごろ信心している石山観音におすがりするしかないと、石山寺に赴き、参籠して祈り続けたのである。折しも、八月十五夜…目の前に置いてあった大般若経を裏返して、「今宵は十五夜なりけり」と書き始めた。これが現在の「須磨」巻になり、帰郷後書き継いで、物語が完成したというのである。これにはさまざまな後日譚が派生する。紫式部は、仏前の神聖な仏典を墨で汚してしまったため、「大般若経」六百巻を書写し直して奉納したとする。…夢の広がりは現在でも楽しいものではないだろうか。