仏報ウォッチリスト

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 「鵺」を見た

国立能楽堂お能『鵺(ぬえ)』を見ました。「ヌエのようなやつ…」とかいうアレです。
鵺とは「人の悲鳴に似た声で鳴くトラツグミの異名」というのが辞書の説明。この作品では「頭は猿、尾は蛇、足手は虎、鳴き声鵺に似たりけり」という怪物です。現代の作劇なら、目撃者らの証言を拾い集めてしだいにその面貌が明らかに、というパターンが常道でしょうが、ここでは前半から本人(の霊)が現れる。ですので、主題は謎解きではありません。
鵺はかつて天皇を苦しめ仏法を妨げようとした罪で源頼政に討たれました。その経緯を旅僧に伝え、自身の回向を頼みます。ならず者の苦悩をしっとりと見せるのが演者の腕前。正体見たり、などという単純なカタルシスよりも、けたちがいに深い……。
なお、僧侶の読経する〈一仏成道観見法界、草木国土悉皆成仏…〉は、手元の謡曲解説本ではいずれも、「止観私記」によれば「中陰経」の一節、と注釈しながら、実は当経典にこの文句はないとも。ヌエだけに詳細不明。