仏報ウォッチリスト

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 井筒を見た

先日、国立能楽堂お能「井筒」を見ました。筒井筒の話です。
話ですと言ったって、展開も何もありはしません。シテの女性が伊勢物語(23段)の〈筒井筒井筒にかけし…〉〈比べ来し振り分け髪も…〉〈風吹けば沖つ白波…〉という和歌3首が詠まれた経緯を回想。どうやらこの女性はその歌に出て来る本人(の霊)らしい――たったこれだけを素材に登場人物3人で1時間半の舞台を作ってしまうのですから、能楽というのはすごい芸能だなあとつくづく驚嘆します。
私にこれ以上解説する技量はないので、同公演パンフレットの「鑑賞の手引き」の一部を写します。

複式夢幻能という卓越した作劇法によって、能は、人間の対立によるドラマの展開ではなく、情念の純粋な高揚あるいは昇華といったものによって感動を呼び起こします。(略)現在の人間が実際の時間の中で物語るのではなく、あの世から時間を遡って現れた女に回想させることで、生々しい情念ではなく、純粋に浄化された思慕の情を際立たせることができるのです。



ほかに仏教的なことをメモしておきますと、

  • 場面設定は在原寺の境内。天理市にあった在原業平建立の寺らしいものの未詳で中世には荒廃していたとか。
  • 詞章にある〈頼む仏のみ手の糸〉〈照らさせ給ふおん誓ひ〉〈行方は西の山なれど〉などから、背景にあるのが阿弥陀信仰と分かります。
  • 冒頭に登場する僧侶は例によって舞台脇で終始シテを見つめているだけですが、〈ワキの僧を観客の代表のような立場に置き、シテはワキを透過して観客に語りかけてきます〉(同パンフより)のだそうです。