仏報ウォッチリスト

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 「天鼓」を見た

ひきつづき、国立能楽堂興福寺勧進能でお能「天鼓(てんこ)」を見ました。
妙なる響きをもつ天の鼓(つづみ)を奏でられるのは天鼓と名乗る童子だけ。時の帝は童子を殺して鼓を手に入れる。鼓を鳴らすために童子の父親が召され、無事に音を取り戻した後の弔いの法会に導かれて、童子の霊が現れる……。
前半で失意の父親、後半で喜び舞う童子を演じ分けるシテ役者は大変ですが、その転換に共感して観る側も大変。

……この能を、音楽の力ですべての恩讐を超えて、恨みから解き放たれた純粋な魂の喜びの舞と解すれば、超越と和解の劇となる。過去の殺戮の罪業を悔い、未来の救済を求める興福寺の阿修羅像と似ているではないか。両方とも無垢の少年像で表現されている。
 しかしそれも、前段で子のために身を挺して恨みを晴らした父親の思いが表現されて、初めて成立する恩愛の劇である。この能が単なる遊舞の能でない所以である。東洋には恩讐を越えて赦すという、寛容の境地があったことを改めて思う。多田富雄)――当公演パンフレットより

なお、天鼓については『法華経』序品に〈天鼓自然鳴〉とあり、同じく『法華経如来寿量品には〈諸天撃天鼓、常作衆伎楽〉と出てきます。