仏報ウォッチリスト

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 「江口」を見た

先日、国立能楽堂お能「江口」を見ました。
むかし西行法師が一夜の宿を頼んで断られた場所が江口の里、断ったのが江口の君という遊女。この旧跡を訪れた旅僧の前に江口の君の霊が現れる。キーワードは「仮の宿」。遊女のつれなさを嘆く歌を詠んだ西行に対し、あのとき断ったのは出家の身をおもんぱかってのことだと江口の君はいう。これは遊女のほうが一枚うわて。いや一枚どころか、この遊女は実は普賢菩薩の化身、仮の宿であるこの世への執着を捨てよと説いて西方浄土へ消えていった……。
後半では仏教書の文言をそのまま引用した詞章が語られます。
〈それ十二因縁の流転は車の庭に廻るが如し、鳥の林に遊ぶに似たり〉(『六道講式』)
〈前生また前生、かつて生々の前(さき)を知らず、来世なお来世、さらに世々の終りを弁(わきま)ふる事なし〉(貞慶『愚迷発心集』)
文字面をたどるだけでは説教臭くも思える章句を、詩的に聞かせてくれる舞台に感服します。
ところで、まことにお恥ずかしいことに、私は主役の人をまったく取り違えて鑑賞していることがあります。面を付けているせいで役者の素顔が分からず、くわえて発声している口元も見えなくて判断材料がないためです。今回後半、船に乗っている遊女が3人、衣装が右から赤・白・白。すっかり赤が江口の君、白2人が従者だと思い込んでいたところ、中央の白い人だけが前へ歩み出て、左右の2人は引き下がってしまい、ちょっとうろたえました。以前もそんなことがあったような。こればっかりは繰り返し見て目に焼き付けておくしかないのでしょうか。