仏報ウォッチリスト

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 典籍の至宝を見た

先日、五島美術館で「伝えゆく典籍の至宝」を見ました。
ここでいう典籍とは、ジャンルを問わず写本(手書き)と版本(印刷)とをひっくるめた総称。大東急記念文庫所蔵の優品150点。文字好きにはたまらない企画です。
写本の代表といえば、お写経。なかでひときわ優美に見えたのが「紫紙金字花厳経」です。展覧会でよく見かける「紺紙」の写経(当展にも平安時代の「中尊寺経」が出品)は江戸時代ごろまで作られたのに対し、「紫紙」は奈良時代に限られるとのこと。
「騎獅文殊菩薩像内納入品」は、その名の通り仏像の体内に鎌倉時代からしまってあったため保存状態がよい巻物。とくにカラーの見返し絵「春日若宮影向図」の精緻さには目を見張ります。ただし本文の金剛般若経のほうはあんまり巧く思えません。
「光明真言土沙勧信記」は明恵上人直筆。ぼってりした筆致の漢字カタカナ交じり文。今でいう旧字体(佛・圓・樂など)と新字体(真・来)が混在しているのがつい気になってしまいます。
「目無経」は、絵巻の制作を企図しながら亡くなった後白河法皇の菩提を弔うため、その絵巻の下書き(屋敷や人物の輪郭だけ描いた未完成品で表情などが書かれていないから「目無し」)を写経料紙に転用したもの。意味深な背景が装飾経と一味違う情趣をかもしだしています。
さて、版本のほうもその歴史は仏教なしに語れません。
世界最古の印刷物「百万塔陀羅尼経」に始まり、「春日版」と呼ばれるのは平安末期から興福寺が春日明神に奉納する目的で出版した経本。この頃は特定の個人の筆跡を尊重して彫った筆写体が主流だといいます。
鎌倉時代の「法隆寺版」「西大寺版」、そして鎌倉後期の「五山版」になると、版面を太枠で囲み、袋綴じにするため中央に1行空白を設けてそこに【 】を縦にしたような目印がつく。そう、これが現代の原稿用紙の原型なのだそうです。
江戸時代に至れば「天海版」一切経。洗練されてくるにしたがい、手書きにはない印刷の魅力が加わってきます。
仏典以外にも歴史書や文芸書など多数展示。長いこと見とれてしまいました。