先日、国立能楽堂でお能「善界（ぜがい）」を見ました。
善界は流派によって是界・是害・是我意などとも表記するそうです。彼は中国の天狗の首領で、日本征服を企む悪人。この国を奪うには比叡山を狙えと天狗仲間からアドバイスされて乗り出したものの、僧侶の祈祷であえなく退散するというお話。
仏教の堅固なることをアピールする意図は明確。たいしたひねりもなく特筆すべきことはないのですが、せっかくなので詞章をいくつか抜粋。
〈輪廻の道を去りやらで、魔境に沈むその嘆き、思ひ知らずや我ながら（中略）なおも鬼畜の身を仮りて、いとど仏敵法敵となれる悲しさよ〉
と、天狗はみずからの身を嘆いています。なんだかチキンなやつです。
〈不思議や雲の中よりも、邪法を唱ふる声すなり、本より魔仏一如にして、凡聖不二なり、自性清浄天然動きなき、これを不動と名づけたり〉
これが僧の祈りとなって、不動明王をはじめ次々と諸仏諸神が現れます。にしても「魔仏一如」というのは強烈。
