仏報ウォッチリスト

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 ユートピアを見た

出光美術館で展覧会「ユートピア 描かれし夢と楽園」(12/20まで)を見ました。
日本人が思い描く理想郷世界を、館蔵品の絵画や陶磁器の絵柄など50点あまりでたどる企画。まず冒頭の展示が、枕!(もちろん美術品の)で、ここから夢の世界へいざないますよという構成がなんとも洒落ています。理想郷の光景に続き、美女が集う場もまさにユートピア。エンディングは絢爛に咲き誇る花々。
東洋で楽園といいますと、ベースにあるのが「蓬莱」なのだそうです。蓬莱は〈仙人が住むと伝えられる霊山。不老不死を象徴する理想郷〉。そこには太陽と月が同時に昇り(これが「天保九如」という画題)、寿老人や鶴や鹿が姿を見せます(鹿〔ロク〕は禄〔=富〕に通ずるからとか)。
楽園のヴァリエーションとしてつとに知られるのが「桃源郷」で、これは陶淵明『桃花源記』に由来。富岡鉄斎や田能村竹田が描く仙境に吸い込まれそうになります。この光景を彩るのは、桜ではなく、梅でもなく、やはり量感ある桃の花が似つかわしいと納得します。
で、仏教です。展示品には、ユートピアからの連想で阿弥陀来迎図と涅槃図があります。浄土や涅槃は憧れの境地に違いありません。でも、桃源郷とは違うんですよね。何が違うのでしょう。たとえば花を見て、その美しさにうっとりするか、無常のはかなさを観じるか、の違いでしょうか。ユートピアが幻想なのか、それとも現実が仮想なのか……。その双方を矛盾なく受けとめてきた日本人のバランス感覚に驚嘆します。