仏報ウォッチリスト

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 「邯鄲」を見た2

国立能楽堂お能「邯鄲(かんたん)」を見ました。2年前にも見て、このたびが2回目。能楽鑑賞もついに2巡目に、とはいえ、これまでお目にかかったのはやっと30番ほどでしょうか(見た演目はすべて当ブログに記してあります)。有名なあれもこれも見ていないと焦ったところで、こればっかりは上演に巡り合わないことにはしかたありません。
一炊の夢で世の無常を悟る主人公。あらすじは前回記したとおりで、僧侶や経典の引用は出てこなくとも、仏教色が濃厚な作品です。ただその前提に、舞台が唐土であることからして、まず道教があるのを意識しておく必要があります。以下は公演パンフレットの「鑑賞の手引き」から引用。

 中国の人々の心を古来とらえてやまないのは、道教の教えでした。(中略)不死身の仙人を目ざして山林で修行を積み(略)不老不死の霊薬を作り出そうとする。……あくまで生命そのものを追求する飽くなき試みは、「生きるとは何か」に迫る極限の思想ともいえます。
 これに対して(略)仏教の思想は、「死とは何か」という視点から人生をとらえる思想で(略)これは現実逃避の消極的思想ではなく、万物の虚しさを知った上で日々を精一杯生きる前向きな発想なのですが、死を直視して逃げないという点で、道教思想と正反対であることに相違はありません。(村上湛)
  ――『国立能楽堂』No.317から抜粋

不思議な枕が見せてくれた栄華の夢も、どう受けとめるかは人によって(信仰によって)変わってくる。その違いを舞台は鮮やかに見せてくれているわけです。