仏報ウォッチリスト

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 「道明寺」を見た

歌舞伎座で、御名残三月大歌舞伎の第三部(夜の部)を見てきました。
「道明寺」は『菅原伝授手習鑑』二段目の切。人知を超えた奇跡と人情味ある別れとを同時に描く重厚なストーリーで、場面転換のない2時間弱の大舞台。
菅原道真太宰府へ流される途中で伯母の館に寄り、この失脚の原因をつくった養女が見送る……。詳しい筋は他へ譲るとして、ここでは仏教関連のことを。
この演目を「道明寺」と呼ぶのは通称で、物語としてはここ土師の里覚寿館に道真が木造の自刻像を祀って、それがのち道明寺になったということになっています。が実際には、道真左遷の途次に道明寺を訪れて覚寿尼と別れを惜しんだという逸話から、芝居として道明寺縁起を創作したのだそう。なかなか手の込んだ着想です。
主要人物を演じる松嶋屋一家の息が合っていて舞台が締まります。とりわけ苅屋姫の片岡孝太郎が期待どおりの好演。


続いて「石橋(しゃっきょう)」。能に取材した舞踊。歌舞伎では「鏡獅子」「連獅子」などで有名な獅子物(もしくは石橋物)のなかでも、これは古い様式。したがって髪洗いとか毛振りといわれるパフォーマンスはなし。そのぶん花四天(はなよてん)が出るなどして賑やか。
 宋の時代に寂昭法師が中国の清涼山の石橋に出向く。出会った童子と樵人は、実は文殊菩薩とその遣いの獅子の精。寂昭は実在した天台宗の僧で、入宋し1034年に没。石橋については、中国天台山に有名な石の橋があり、これを清涼山にあるという設定にしたのだとか。
中村富十郎と実子の鷹之資がシテ。その安定ぶりもさることながら、前の幕に引き続き中村錦之助が光っていました。


この両演目で天神様と文殊菩薩を拝めて、学業成就を祈る向きにはまことにありがたいプログラムです。