仏報ウォッチリスト

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 「欣求浄土」を見た

大倉集古館で展覧会「欣求浄土 ピュア・ランドを求めて」を見ました。同館コレクションの中から仏教美術約30件を集めた企画展。
広報にも使われている「山越阿弥陀図」は江戸末期の冷泉為恭の絵で、時代が新しいせいか一見けばけばしく感じなくもないですが、実物はたいへん丹念に描かれていて着衣の文様や手前の自然描写など細部に目を奪われます。その対面に鎌倉時代の阿弥陀来迎図が4点。うち右端の三尊像は金泥と金箔がよく載っていて眩しいです。
経典も新旧2つ。「古経貼交屏風」は六曲一双の金地の上に奈良時代の写経断簡34枚、百万塔陀羅尼5点、平安から鎌倉の経典10枚、年代不詳3枚を張ったもの。「平家納経模本」は大正時代の製作。いずれも以前の展覧会で見ていますが、今回は技巧云々よりも浄土往生を願って一心に写経するその思いが伝わってくるようでした。
浄土というとまず極楽と考えがちですが、これは阿弥陀仏のいらっしゃる世界で、浄土の一つにすぎません。1階の奥に常設の国宝・普賢菩薩は釈迦如来の脇侍といわれ、釈尊は霊山浄土の仏。そのお釈迦さまの最期を描いた鎌倉時代の「仏涅槃図」が2階にあります。これまた優品。
同じフロアに最近修復したという鎌倉期の十六羅漢図(会期中に半分ずつ展示替え)。よけいなものを描かないシンプルな表現。1枚を除いて和歌山・浄教寺所蔵の十六羅漢図と絵柄が一致するそうです。
純粋な仏画ではないものの、「探幽縮図」というのが面白い作品で、これは鑑定を依頼されて持ち込まれた品々の特徴を狩野探幽が書き留めたメモ。集印帳のようなノートにササッと描いた絵の流暢なこと。ひょっとして現物よりも味があるかもしれません。
ということで、館蔵品からチョイスするという制約上、浄土というテーマを深く掘り下げるには至らぬものの、それゆえ逆に、芸術一般からはみだした仏教美術の特徴をさりげなく浮かび上がらせている気がします。こうした作品を作り上げた者の、そして蒐集したコレクターの心持ちを思うと、ピュアな祈りを感じずにはいられません。