仏報ウォッチリスト

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 「救いのほとけ」展

国際版画美術館で企画展「救いのほとけ 観音と地蔵の美術」を見ました。
当館の専門分野である版画を通じて、仏教信仰を考える企画。背丈5センチくらいの仏像のお姿を判子にして紙に刷る。これを有縁の人に配布したり、束ねて仏像の体内に納入したりすることが長く行われてきました。
複製に価値がある。たとえば浅草寺の本尊は古くから秘仏ですが、代わりに刷られた「柳之御影」によりかえってよく知られた存在となっています。そもそも仏典は版本によって普及し、それが刷り物の技術向上を促進してきたわけで、仏教と印刷とは密接な関係がありました。
小さな仏を刷るのに、相応の小さな紙片を用いることもあれば、大判の紙に並べて連続印刷する場合もあります。この後者の連打のリズムがいいんです。手作業なので天地の位置も、左右の間隔も微妙にずれている。これがなんとも心地よい。
曼荼羅図などでも、まず複雑な下絵を版画として摺り、その上に着色することで、同一の画像を次々と流通させることができるわけです。着色は手描きですから、二つと同じ物はない。こうした例からも、複製が必ずしも作品それ自体の価値をおとしめるわけではないことがわかります。
ところで、主催者側としてはこれだけじゃ企画として弱いと思ったのか、版画に限らず近隣の仏教美術品も本展には混じっています。そのせいで主題が薄れてしまっているように私は感じますが、興味深い作品も多数あります。
仏像が4点。うち3点は納入品を展示している仏像本体でいずれも佳品。もう1点は珍品「よみうりランド観音」、いや"珍"なのは所蔵の経緯だけで、像自体は平安時代作の優品です。図像では魚籃観音に似た「霊照女」というのを初めて知りました。
展示品は多岐にわたるものの、タイトル通りに救いというテーマを掘り下げようとする姿勢が伝わってくる好企画です。