仏報ウォッチリスト

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 白洲正子展を見た

先日、世田谷美術館で特別展「白洲正子 神と仏、自然への祈り」を見ました。随筆家・白洲正子が取材した対象を紹介する展覧会。正直に言いますと私は白洲正子作品の熱心な読者ではなく、チラシに載っている仏像に興味がある程度で訪れたのですが、これは面白い。
著者自身を解剖して見せるのではなく、ご本人のお眼鏡にかなった美術品を集めて一つの筋道を示すという高度な企画。展覧会の出陳品というのはふつう、作品の由来やら時代背景やらさまざまな要素を客観的に判断して取捨されるのでしょうに、この会場にはたった一人の主観で選ばれたものしかない。その美意識を共有できるかが鍵。私はうまく乗れたと思います。
作品説明はすべて著作からの引用文。これで一気に白洲正子ワールドへといざなわれてゆきます。このパネルがよくできているのです。400字詰め原稿用紙の升目を紺色で刷った紙の上に透明なアクリル板を乗せ、板の表面に同色で印字してあります。文字と升目の間に透明な隙間があるので、角度により字の影が動き、文章が浮き上がって見える。にくい演出です。
がぜん無名の作品に惹かれてしまうのは、すでに術中にはまっているのでしょうか。名もない仏像、たとえば白洲正子が「いっしょに暮らして」愛蔵していたという小柄な十一面観音像にほれぼれ。
ですけど、ただ陶酔したままでは終わらせないのが本展の優れたところ。いきなり明恵上人の「樹上坐禅図」なんて出てくると思わず背筋が伸びる。「伝教大師坐像」と向き合ってまたハッと目醒める。白洲正子の審美眼は、こういう厳しさを奥底に秘めているからこそ、ブレることがないのだろうと納得しました。