仏報ウォッチリスト

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 「高野版」を見た

印刷博物館で企画展示「空海からのおくりもの 高野山の書庫の扉をひらく」を見ました。
高野山の寺院が所蔵してきた書物や版画、版木など計79点を紹介。中世日本の印刷物といえば経典や護符など仏教に関するものが中心でした。お寺の印刷文化という切り口は地味ながら興味深い企画です。
経典や論書の出版事業にはいくつかのブランドがありました。興福寺で製作された春日版、知恩院を中心とする浄土教版のほか、西大寺版、叡山版などがあり、高野版もそうした銘柄の一つです。とくに高野山での印刷出版は鎌倉時代から明治初期まで継続され、比類ない技術が蓄積されてきました。
高野版の特徴は、(1)高野山麓で作られた高野紙を使い(2)楷書の写経体を用いて(3)粘葉装で装丁したものが多いことです。このうち粘葉装(でっちょうそう)とは、両面刷りした紙を二つ折りにして束ね背表紙になる側を糊付けする製本のこと。現代の無線綴じに似ていて我々が驚くような技術ではないのですが、巻物や折本が主流の時代にこれは珍しかったのです。
展示の後半は「高野大師行状図版」を中心に版画を紹介。モノクロもいいけど、色が着くとたちまち世界が変わる。版木・墨版・着色版を並べたケースが目を引きます。続く古活字版も興味深い展示です。
版木で量産する印刷技術は、仏典を複製して教学の研鑽に寄与しました。一方で、神仏を身近に感じさせる図画が布教に一役買ってもいます。言うなれば仏教者のプロとアマが共に印刷文化を支えてきたわけです。
もちろん商売として採算を合わせる努力はあったにせよ、おそらく儲け一辺倒ではなかったはず。高野山の信仰を背景とした実直な取り組みが、今日の出版事業につながっている。ふつつかながら編集制作に携わる者として、身の引き締まる思いがいたしました。