仏報ウォッチリスト

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 五百羅漢展を見た

江戸東京博物館で特別展「五百羅漢 増上寺秘蔵の仏画 幕末の絵師狩野一信」を見ました。
狩野一信が高僧500人を5人ずつ100幅に描いた10年越しの労作。全キャラクターを描き分ける工夫、執拗な細密描写、動きや光を漫画風に処理したり、遠近法を駆使したりと見どころが満載の作品です。
近づいて目をこらすと輪郭線が特徴的です。たとえば人物と背景との境目にはごつごつと太さの一定しない黒い部分があり、その黒色と着物の色柄との間に金色の一定の太さの線がある。この金が輪郭となり、黒い部分は金を際立たせるシャドウのような効果を出しています。
そうした繊細な芸当に対して、作品のサイズが大きすぎるのが難。天地172センチという画面の全体が視野に入るまで離れると、着物の柄や髪の毛といった細部の妙が見えません。
作品説明パネルの決めつけ口調も気になります。「…表情が鋭い」「…動きが乏しい」って、それは見る者が感じとればいいことでしょう。作品と向き合う気をそがれるので、途中から読むのをやめました。
なによりも戸惑わずにはいられないのは、これが仏画だという扱いを受けていないことです。手を合わせるとまでは言いませんが、信仰心の対象という展示ではなく、グロテスクでエキセントリックな面にばかり目を向けさせようとしているように感じます。
作者自身にはどれほどの信心があったのでしょうか。羅漢たちが高所にいて、下層の庶民を救うという構図は類型的。そっとそばに寄り添ってくれるような頼もしさがあってもよさそうなものです。そもそも絵に現れるモチーフや人物のポーズなどに経典の一節を連想させるものがあまり見当たりません。
総じてあまり居心地がよくなく、評価に困る展覧会でありました。