仏報ウォッチリスト

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 空海と密教美術展

東京国立博物館で特別展「空海密教美術」を見ました。
チラシでは〈展示作品の98.9%が国宝・重要文化財〉が売り文句になっています。これをどう受けとめればよいかというと、すべてが横並びだから格付けを気にする必要がないわけです。
なお、例外の1.1%にあたる作品は「金念珠」です。空海が所持したとされながらも裏付けがとれないせいか未指定。出品が全部で99件ですから例外1点でこういう半端な数字になります。
出品リストを見て分かる特徴が2つ。
(1)作品の約84%が平安時代前期の制作
 弘法大師空海(774-835)在世時の前後にこだわったチョイス。関連資料の中には時代の下るものがありますが、中国(唐)制作を含む9-10世紀の作品がほとんど。
 仏像でいうと、写実的な天平彫刻から展開し、和様へ落ち着いてゆくまでの過渡期の作風。本テーマに沿った密教的な味付けが見どころ。目玉は東寺講堂の諸像。この空間に立つ我々も曼荼羅に組み込まれたかのような配置です。
(2)作品の約98%が真言宗寺院の所有
 いずれも由緒正しい宝物。床の間の愛玩品や博物館の資料ではないだけに、密教的なパワーが凝縮されている、ような気がします。
 曼荼羅図が会期中に3件出陳。仏具も空海請来品が多数。寺をお留守にしていいのかと心配になる逸品ばかり。
 ちなみに、複雑に枝分かれしている真言宗の宗派で、今回協力しているのは主に古義真言宗系に属する諸宗派。新義系の智山派や豊山派の名は見かけません。
本展のもうひとつの目玉は、空海の真筆5件が出揃うこと。会期前半は「大日経開題」と「灌頂歴名」。後半は「風信帖」と「金剛般若経開題残巻」。他人が読むことを想定していないメモ書きの自在な筆づかいに胸が熱くなります。前後半で巻が替わる「聾瞽指帰」が堂々たる迫力。巻物をめいっぱい広げてアールをつけた展示がユニークです。
個人的に目を奪われたのが、神護寺虚空蔵菩薩2体。落ち着きある表情が魅力的。それと、最澄筆の「御請来目録」。今回のテーマの中で展示される意味に思いをはせ、謹んで拝見しました。