仏報ウォッチリスト

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 「春日の風景」

根津美術館で特別展「春日の風景 麗しき聖地のイメージ」を見ました。奈良の春日大社(伝統的な呼び名としては春日社)の信仰を表現した中世絵画の展覧会で、中心は20点あまり並んだ「春日宮曼荼羅」。
この「宮曼荼羅」というのが特異なジャンルです。マンダラという言葉にはさまざまな意味合いがありますが、ふつう思い浮かべるのは両界曼荼羅、つまり密教世界の尊像を整理して描いたあの掛け軸でしょう。この形式を神道に応用、ただしご神体を絵にするわけにはゆかない、そこで代わりに境内を俯瞰で描いた図が、宮曼荼羅の原型です。
春日宮曼荼羅のモチーフは、社殿に加えて月と鹿、そして主役と言ってもいいのが参道です。縦長の画面中央を上から下へ貫く参道が光り輝いて見えるのは、金泥が使われているからだとか。
シンプルな春日宮曼荼羅にやがてお隣の興福寺が絡んできます。神仏習合思想では興福寺本地仏、春日社が垂迹神にあたります。社域を延長して興福寺の境内が加えられ、ほどなく春日の4殿と若宮の5神に対応する本持仏が登場、さらに発展型として浄土や補陀落山が描かれるようにもなります。
密教曼荼羅のように大判ではなく、あくまで床の間サイズ。おそらく寺社よりも個人宅に掛けられて拝まれたのでしょう。ともすれば観光案内図にも見えかねない絵柄が、どれだけ宗教心を感じさせるかが鍵と言えましょうか。じっと見つめていると秘めたパワーが伝わってくるようです。
そのほかの展示品では、精巧な「春日権現験記絵」が目玉。愛らしい「春日神鹿御正体」が目を引き、「奈良名所図屏風」というのが珍しい。いずれも派手さはありませんが、読み解くほどに味わい深い優品揃いでした。