東京国立博物館の特別展「法然と親鸞 ゆかりの名宝」に、展示替え後の作品を見るため再訪しました。
「興善寺蔵・源空書状」は、法然上人の手紙の裏に結縁者の名前をずらりと書き記したもの。展示はもちろん手紙の面。図録だと両面の字がぶつかりあって見えるのですが、現物は表面の流暢な書状だけが浮かび上がり、交名が一歩引いて下支えしています。
「親鸞聖人影像(鏡御影)」は斜めの台に傾けて展示。巻き癖がついているせいでちょうどおでこのあたりが丸くふくらんでおり、それがお顔の描線を妙にリアルにしています。
「教行信証(坂東本)」は第五、六冊を展示。最終冊のほうが赤茶っぽく変色しており、紙質が違うのかとも思わせます。
「熊谷直実自筆誓願状」は上品上生の往生を願う書面。誰よりも法然の弟子らしい弟子で、筆跡にも法然上人に地声で訴えているような勢いがあります。
「恵信尼自筆書状類」は、夫である親鸞聖人の消息と並べてあるのが粋なはからい。肥痩のある親鸞聖人の文字に比べ、恵信尼の筆跡はほとんど同じ太さで、まるでサインペンかなにかで書いたよう。かな書きのようでいて実は漢字がずいぶん交じっているのがよく見ないと分からない字です。
「法然上人行状絵図」は国宝の知恩院本(メイン)と重文の當麻寺本(サブ)を切り替えながらの展示。たとえば吉水で説法する図は会期前半だけだと思っていたのに、あれ?後半も出ている、と思ったら同じ場所にサブを掲げてあるのでした。つまり正か副か、国宝か重文かなんて作品の価値は二の次で、場面紹介を優先してメインとサブを入れ替えている(掛けっ放しにできないのは光線などで作品が傷むため)。あくまで法然上人の生涯を知ってもらうのを重視しているわけですね。特別展全体がこのように法然・親鸞という人物像を伝える工夫をしているのに改めて好感を持ちました。