仏報ウォッチリスト

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 お能「誓願寺」

国立能楽堂お能誓願寺」を見ました。シテが和泉式部でワキが一遍上人というちょっと込み入った構成。典拠は「洛陽誓願寺縁起」だそうです。
誓願寺と書かれた額を和泉式部の霊の提案に従って南無阿弥陀仏の名号に替えたところ、阿弥陀如来と二十五菩薩が来迎します。その光景を舞台では二人の会話と地謡で表現、というよりもすべて一遍上人の脳内で展開されている出来事なのかもしれません。
一遍上人が配布している「六十万人決定往生」という札の真意を和泉式部が確認します。わずか六十万人しか救われないのかと問い、この六十万人とは「六字名号一遍法、十界依正一遍体、万行離念一遍証、人中上々妙好華」の頭文字をつなげたものだから、定員を限るものではないと説明されます。
とにかく全編にわたり仏教用語を散りばめ、「有難や有難や」……。
面白いのは、浄土思想の中に「慈眼視衆生」など法華経の偈文が混じっていること。それは宗派が違う、などと反射的に思ってしまうのは、仏教を知識で学んでしまった者の悪癖です。当時はもっと大らかに受容されていたのでしょう。
クライマックスの詞章から。
  ……我が力には往き難き、御法の御舟の水馴棹、
  ささでも渡るかの岸に至り至りて楽しみを極むる国の道なれや、
  十悪万邪の迷ひの雲も空晴れ、真如の月の西方も、
  ここを去る事遠からず、唯心の浄土とはこの誓願寺を拝むなり。