仏報ウォッチリスト

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 お能「歌占」

国立能楽堂で第10回興福寺勧進能「歌占(うたうら)」を見ました。
前半は父子再会。選んだ和歌で吉凶を言い当てる占い師を訪ねてきた子どもは、父親を捜しているという。選んだ歌は「鶯のかひこの中の子規(ほととぎす)しやが父に似てしやが父に似ず」。かひこ=卵、しやが=おのれが。鶯は音読み「おう」が逢うに通じ、子規は「程・時」だから、父親とはもう逢っているはずと読み解く。名前と出身地を訊ねると、占い師本人とこの子が生き別れた親子であると判明して、めでたしめでたし。
物語では、子の占いに先立ってこの子を連れてきた男が、病気がちの父親について占ってもらいます。選んだ歌は「北は黄に南は青く東白西くれなゐのそめいろの山」。須弥山を読み込んだものだという解説で、黄は金輪、青は娑婆の草木、白は雲で父の恩は高く、紅は入日で寿命が来たことを示す。しかし山が赤く染まったさまは蘇りを意味してまだ命が続く(染め色=蘇命路)というめでたい占いが出たといいます。
実はこの占い師自身が一度死んで蘇生したのだといい、死んで見てきた地獄の風景を曲舞で見せるのが後半。神がかって狂乱することでリセットして、父子は故郷に帰って行きます。シテはお面をつけないため前半はリアルで、一転して後半の乱舞に驚かされます。
「歌占」はなぜか手元の謡曲集に載っていないので重要な作品ではないのかと見くびっていましたが、見どころがハッキリしていてなかなか面白い演目でした。なお、詞章は『謡曲大観』に載っているのを先日展覧会を見に行った神奈川県立金沢文庫の図書室で見つけ、コピーさせていただき持参しました。