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 再発見!鎌倉の中世

神奈川県立歴史博物館で特別展「再発見!鎌倉の中世」を見ました。鎌倉の世界遺産登録推進として鎌倉国宝館・神奈川県立金沢文庫と同時に開く3館連携特別展の1つで、同館が受け持つテーマは、「地中から掘り出された中世都市鎌倉」です。
展示数が非常に多く500件あまり。陶磁器片などは複数を一括して1件と数えていますから、展示の手間などを想像すると気が遠くなりそうです。けれどもそれでちまちましているかというとそうでもなく、大きな甕が2つあったり、宝篋印塔がごそっと並んでいるなど、めりはりのある展示構成です。
発掘品に絞ったからこそ見えてくることがあります。埋もれていた物ですから紙や布はありません。あるのは石、陶磁器、まれに木製品。驚くのは漆器の強さで、絵柄も鮮明に残っています。漆器は出土した後に特殊な保存加工を施すのだそうで、まだその加工の順番が回ってこない漆器が水の入ったビニール袋に密閉されたまま展示されていて、保存の苦労がしのばれます。
発掘品には意図して埋めた物と、思いがけず埋まってしまった物があります。埋めた物の代表は人骨と埋葬品。表面にびっしり写経した石は、紙の写経よりも効力が長く持続するよう願って埋められたようです。呪符木簡や形代もあえて埋めた物でしょう。
逆に、何らかの理由で埋まってしまったおかげで今日まで残った展示物が、さいころや将棋駒などの娯楽品。版木や染型、スタンプといった珍品も。多数出土している輸入青磁は、自らの権威を高める「威信財」だったとのこと。
本展のもう一つの特徴は、鎌倉の考古学調査をしてきた研究者の顕彰に努めていることです。三上次男・赤星直忠・八幡義生・鈴木尚といった方々の採集品とともに手書きの調査ノートを展示。板碑などはこの発掘記録がなければ建てられていた地名も判断できなくなるそうで、まさに重要な一次資料です。
「鎌倉はけっして繁栄が持続した都市ではなかったし、そのことが逆に遺跡の保全につながった」と解説パネルにあります。明治半ば以降に横須賀線の開通で観光地化し、昭和30年代から宅地開発が盛んになって、はからずも往時の埋蔵品が掘り起こされたわけです。奈良や京都とは異なる歴史を刻んできた鎌倉の特徴を、現物の資料でありありと見せてくれる展覧会でした。