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 「法華経の世界」展

神奈川県立金沢文庫で企画展「法華経の世界」を見ました。日本で最も親しまれているこの大乗経典は、どのような内容で、どのように伝えられてきたのかを、展示品と説明パネルで懇切に解説。
法華経で重要なテーマは「授記」すなわち、あなたは如来になるという釈尊の予言である、というわけで、冒頭に称名寺の釈迦如来立像と十大弟子像を並べて展示。ただし10人の弟子のうち、優波離だけは法華経に登場しないため、別のフロアに隔離するというニクい演出。十大弟子というくくりは維摩経にあるもので、法華経と合致しないのは決して不自然ではありません。ただ、他の9人との違いは優波離1人だけシュードラ階級の出身だということ(それが法華経に登場しない理由かどうかは不明)。
授記のしかたで分類すると、舎利弗は〈声聞だけれど菩薩行をすること〉で如来になれると予言されるのに対し、須菩提迦旃延・迦葉・目連は〈本当は菩薩(仏子)だったから〉授記を得たといいます。舎利弗を自力の修行者に位置づけておくという意図でしょうか。
解説ではつづいて信仰、福徳、菩薩について説明し、〈如来と成ることを目指し、菩薩と名乗った大乗の仏教徒にとって「法華経」は、為すべきことや将来像の指針だったと考えられ〉、それが広く読まれた理由だったのではないかとしています。
一方、〈授記に対する意識が薄れるにつれて、「法華経」供養の目的は、単純に未来の良い結果を得ることにむかっていきました〉。供養のバリエーションとして、装飾経、埋経、像内納入経を紹介。日本では、先祖供養や鎮護国家のために読まれ、霊験譚を取り入れて講釈されてきました。密教では法華曼荼羅となり、日蓮は単純化して南無妙法蓮華経の唱題を広めます。そうした展開を一目瞭然の展示品で提示。
会場には多彩な経典が並んでいます。ヤシの葉に書かれたサンスクリット原典、古い漢訳である正法華経の版本、豆本のような細字経、木簡のこけら経、紺紙金字の装飾経など。このように種類が豊富なのも、法華経が経典そのものを信奉するという性格が強いことを思わせます。
会場はこぢんまりしているものの、法華経の全体像をきっちり示し、それがどう受容されてきたかを一望できる、スケールの大きな展示でした。