仏報ウォッチリスト

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 「當麻寺」展

奈良国立博物館で特別展「當麻寺 極楽浄土へのあこがれ」を見ました。
奈良県葛城市の當麻寺といえばイコール中将姫伝説、と思っていたところ、それは一面に過ぎないという展示構成。絵巻「當麻寺縁起」の展示は上中下3巻のうち上巻のみ第1室にあり、これが言わば前史。7世紀に河内にあった前身寺院には聖徳太子が御幸し、やがて二上山の麓に移築、この地には山への落日を西方のあの世と見る信仰がありました。当時の本尊は弥勒仏坐像で、役行者との関わりもあったといいます。展示では古代寺院の発掘品、平安仏、本堂屋根裏にあった光背や台座などを紹介。ここまでで既にそこそこの展覧会1つ分のボリュームがあります。
次の部屋でついに曼荼羅の話題に。「縁起」の中巻は中将姫が継母からいじめを受けて山奥に捨てられる話。もはやお寺を離れて女性の生い立ちだけを追っています。下巻では中将姫が當麻寺に入り、称讃浄土経1千巻を書写し、出家して法如と名乗り、一晩のうちに當麻曼荼羅が完成、阿弥陀来迎を受けて往生するまでが描かれています。
中将姫坐像は白い頭巾をかぶって目鼻口だけが見えます。図録には頭巾をとった姿の写真もありますが、付けたままのほうが雰囲気があります。奈良時代書写の称讃浄土経(玄奘による阿弥陀経の異訳)は光明皇太后七七忌に一度に書写されたものを「中将姫願経」と呼んでいるのだそう。ここで阿弥陀来迎を再現した迎講の面や二十五菩薩などを紹介。気をもたせます。
そしていよいよ。古文書類で當麻曼荼羅に関する記述を紹介する先に、ケース内に吊られた4メートル四方の綴織當麻曼荼羅が。ほとんど絵柄は見えないものの、伝説の織物を目の前に、みな無言でそのメッセージを聞き取っています。
隣接した小部屋で伸縮自在のデジタル画像を見せており、これで詳細を確認してから再び現物の前に戻ると、残像が見えてくる、気がします。対面に置かれた當麻曼荼羅を収める厨子扉の蒔絵も流麗でした。
展示はこれで終わりません。後半は、その後の當麻曼荼羅信仰の展開について。浄土宗の証空が當麻曼荼羅を善導による観無量寿経の解釈を反映したものだとして注目。さらに時宗の聖や葛城の修験者とも結びついていきます。展示品では極楽が當麻曼荼羅そのものとして描かれている屏風「十界図」が印象的でした。
寺院というのは必ずしも一宗派の教えを遵守してひとすじに今日に至ってきたわけではないのです。さまざまな影響を受けて複雑に折り重なった歴史を丁寧に解きほぐして目の前で見せてくれる、たまげた展覧会でした。