仏報ウォッチリスト

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 「和様の書」

東京国立博物館で特別展「和様の書」を見ました。会期中に駆け足1回を含む計3回訪問。
三跡以降かな文字が確立されてから近世までが勢揃い。仏教史に照らすと、和様に対する唐様である空海禅宗の系統はすべてカット。そうなるとお坊さんの出番はほとんどないのが残念。
とはいえこれだけの逸品が集められるとさすが壮観です。たとえば手鑑。折り本状になっていて、たいていは見開き2ページほどが展示されますが、今回は会場の広さを生かして、ズラズラッと横一線に開陳しています。
人だかりになっているのは、三跡と高野切。たしかに見応えあります。が、ここではあえて写経作品についてメモをします。
全5章中の第3章が「信仰の書」で、経典を中心に約10点(会期中展示替えあり)。写経は時代を超えて一貫した書法かと思いきや、「竹生島経」「久能寺経」などの字を見ると、転折に丸みがあって確かに和様。贅沢な装飾が施されているのも和様写経の特徴です。
浅草寺経」は立ったまま見ると細かい金箔の反射ばかりが目立ちますが、かがんで角度を変えたら墨文字が目に飛び込んで来て驚きました。「宝篋印陀羅尼経」は逆に再利用紙の文字ばかりが見えていたのに、真上から垂直に覗き込んだところ金の経文が浮かび上がりました。
「平家納経」は法師品・安楽行品・如来寿量品を拝見。立ち止まらないよう係の人が声をかけるのに遭遇したのはここが唯一でした。すべり台で遊ぶ幼児のようにとってかえして再び列の最後尾に並ぶこと数度。
並びながら、書の作品を見るのはなぜ時間がかかるのかを考えていました。文字を読んでしまうから、という理由もありましょう。しかし実はそれ以上に、見るべき要素が多すぎるからなのではないでしょうか。
レイヤー(層)に分けると、いろいろ抄き込んだり染めたりした紙自体があり、そこに施した金箔銀箔砂子などの装飾工芸があり、その上に描いた下絵があり、さらに墨を基調とする本文がある。これで4層。平家納経のように裏面にも装飾した作品や、裏紙を再利用して価値的には両A面のような作品もある。しめて5層。
これでは行列ができるのもいたしかたないと納得し、黙って順番を待ちました。