仏報ウォッチリスト

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 東洋文庫の仏教文書

東洋文庫ミュージアムで企画展示「仏教 ―アジアをつなぐダイナミズム」(1/11〜4/13)を見ました。
東洋文庫は東洋学の専門図書館で、その蔵書を展示する展覧会という性格上、印刷された書籍や手書きの経典など紙の文書が中心。インドで生まれた仏教がアジア各地に伝播して独自に発展したもようをたどるメイン展示(ディスカバリールーム)30件あまりのほか、同館入口(オリエントホール)では西洋で出版された仏教学の書籍など18件を展示。特定の宗派色がなく、上座部・大乗・チベットそれぞれを同等に扱うなど、仏教概論として打ってつけの内容です。
珍しい品としては、年代不詳の「パーリ語聖典」は横長のパームリーフにクメール文字の経文を鉄筆で1行ずつ記して束ねたもの。大谷光演が暹羅(シャム)で入手して大隈重信に贈り、河口慧海を経由して東洋文庫に寄贈されたものが書庫に長らく眠っていて、2011年に発見され初公開という来歴が興味深いです。
9世紀頃写「梵語千字文」はサンスクリット語辞典の現存最古の写本。漢字4字で1句とした漢詩に、対応する梵語が傍らに縦組みで記されています。最近の研究により遣唐使として中国に渡った学僧が持ち帰ったと考えられているそうです。
漢字の経典は五月一日経、神護寺経など、うち印刷経典は百万塔陀羅尼に始まり、春日版、宋版、永楽南蔵、乾隆版、高麗版などのほか、ハングル表記の経典も。
チベット関連では装飾を施した写経と仏画。経典は大判の厚紙を何枚も重ね、板で上下から挟んで保存する写経を数十点、棚に保管した状態を再現して展示。ふつう書棚と聞いて想像する様相とはまったく異なり、文化の違いを感じます。
ネパールの写経で紺紙に金字と銀字の行を交互に書いた陀羅尼集経があり、チベットにも紺紙に金字で書いた八千頌般若経がありました。これは日本の装飾経(中尊寺経や神護寺経)と同じ製法ですが、影響を与えた歴史があるのか、それともデザインを極めるとおのずとこういうところに行き着くのかは不明です。
きらびやかなチベット仏画(タンカ)が複数あるせいか、展示がチベット仏教にやや偏っているようにも感じますが、ひょっとするとアジアの仏教情勢を客観的に見渡せば、おのずとそういう勢力分布になっているのかもしれません。