仏報ウォッチリスト

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 お能「呉服」

国立能楽堂で、お能「呉服(くれは)」を見ました。中国からやってきた女工が美しい織物を作って天皇に献上し、御代を祝福するという内容。タイトルの由来は中国の呉国であり、現大阪府池田市の地名であり、呉織(くれはとり)と漢織(あやはとり)という女工の名でもあるそうです。とにかく何も起こらない。いえ、過去の人物が眼前に現れるというあり得ぬことが起きてはいるのですが、人物紹介があって舞うだけという、シンプルの極み。
パンフレットによれば、「晩年の世阿弥が、新将軍足利義政を祝福するために書き下ろした祝典曲と考えていいでしょう」とのこと。「世阿弥は、この能の裏に、自分たち観世の家は秦氏または服部氏であって、呉織・漢織たちの子孫であり、今、足利義政様の御代にあって自分たちは芸能によって聖代の創出に寄与していますよ、というメッセージまで込めたのかもしれない」(松岡心平)。つまりそういう目的も能にはあるということ。謡曲では「我が日の本は長閑なる、御代の光は普くて国富み民豊かなり」とひたすらリップサービスを重ねます。
仏教の要素としては、終了間際の詞章に「夢の精妙憧菩薩も影向なりたる夜もすがら」と出てきます。パンフレットは妙憧(みょうどう)ですが、底本は妙童、新潮古典集成は妙幢(ミヨオドオ)で、金光明最勝王経夢見金鼓懺悔品に「夢中に如来真実の功徳を賛えた菩薩」と注釈があります。呉織・漢織が渡来したのは応神天皇の御代だそうなので、仏教は絡めづらいようです。