仏報ウォッチリスト

ここは仏教の最新情報、略して《仏報》の材料をとりあえず放りこんでおく倉庫です。

 仙厓/国分寺/小津

都内で比較的小規模な3つの企画展を見てきました。


1)ディスカバリーミュージアム「禅・仙厓
永青文庫の所蔵品から、仙厓義梵の禅画20点弱を、羽田空港の片隅でひっそり公開。禅僧のエピソード、仏菩薩、動物など出光コレクションでもおなじみの画題の別バージョンですが、全体的にゆるめ。そんな中で一行書「衆生心中諸佛応現」がキリッと光っています。鏡餅と鼠二匹を描き「鏡餅鼠み引こそ目出たけれ」(一人過ごす正月、鼠に引かれそう)というモチーフは初めて見ました。
それにしてもこのスペース、作品の前にソファがあって居心地良いのはいいんですが、外光が差し込む部屋に軸を掛けておいていいのでしょうか。


2)旧新橋停車場鉄道歴史展示室「国分寺物語 諸国国分寺を巡る旅
聖武天皇が全国に作らせた国分寺の様子を故住田正一氏が蒐集した古瓦で想像する企画。たとえば多くの鐙瓦(軒丸瓦)には蓮華、宇瓦(軒平瓦)には忍冬の文様がありますが、各寺によってデザインが微妙に違います。ということは中央が支給したのではなく、それぞれ恐らく現地で造られたのであり、それだけの技能が各地にあったことが分かります。
展示の中心は、全国まんべんなく50以上の国分寺の瓦と、文字が刻まれている武蔵国分寺の瓦60点あまりです。武蔵国分寺の瓦の文字は地名を1字で表したものだといい、説明にはありませんが、各地域が出資した証しなのでしょうか。
なぜこの展示室で国分寺なのかというと、会場の説明によれば国分寺は国府のそばに建てられ、国府と中央との間に整備された道路が、のちに鉄道の路線となったことが示されています。と同時に、氏のご子息がJR東日本社長を務めたことも大きいでしょう。
パネルで「暇あるごとに各地の国分寺跡や廃寺に採集に出かけ…」という住田氏のコメントを読んだ来場者が「そりゃ窃盗じゃないか」とつぶやいていて、確かにそうだなと会場にいる間はモヤモヤしていたのですが、考えてみれば今の感覚で100年前の事情を見てはいけないわけで、図録にある住田氏の新聞寄稿を読むとむしろ、古瓦は「無関心のまま放置されている」、だから自分が救出しなければという正義感が強かったもようです。誤解して済みませんでした。なお、住田コレクションは現在、国分寺市に寄託されているとのことです。


3)東京国立近代美術館フィルムセンター小津安二郎の図像学
映画監督小津安二郎作品にまつわる絵画・図案・文字・色彩などに注目した展示。後期カラー4作品のデジタル復元に伴う企画なので、作品資料はその辺りに偏っています。
映画作品の中で室内に飾られた絵画などが橋本明治や山口蓬春ら当時の著名な画家の手による本物だったと紹介。「秋刀魚の味」の小料理屋には会津八一の書(小津旧蔵、鎌倉文学館蔵)も。意外だったのは、こうした美術品を“さりげなく”使っていたのではなく、プレスシートで大々的に売り込んでいること。興行的に話題を喚起するための仕掛けだったのですね。
小津安二郎本人が描いたスケッチも魅力的。日頃から絵コンテを描いているわけですから、絵手紙などお手のものなのでしょう。線画で描いた豆腐が味わい深い形状。タイトルを自作でレタリングするなんて好きでなければ、そして自信がなければできません。
帳面となって綴じられている資料が多く、開かれた頁しか見られないのが残念。
部屋と小道具のセットだけを無人で写した写真が大量に残されており、作品の各シーンを思い出させます。「秋刀魚の味」の平山邸の居間には観音立像(?)の写真額が掛かっており、手前のたんすの上には一抱えくらいの東南アジア系(?)の仏坐像が置いてあります。「お早よう」のオープンセットの写真を見ると、住宅の背後に見える土手は作りものだったと分かるのだとか。
シナリオにも撮影セットにも、監督のとびきりのこだわりが反映されているにせよ、映画は1人では作れません。よほど理解者に恵まれていたんだなとも思わせる展示でした。