仏報ウォッチリスト

ここは仏教の最新情報、略して《仏報》の材料をとりあえず放りこんでおく倉庫です。

 「小塩」「鉄輪」

宝生能楽堂で、お能「小塩(おしお)」を見ました。大原野に咲き誇る桜。在原業平の古歌をベースに、業平が述懐する恋の遍歴、二条后との出会いと別れ。
始めは昔の恋人への未練かと見えて、次第にしっとりとした詠嘆に思えてくるのは、散り舞う桜のせいでしょうか。シテ「心やをしほ(惜・小塩)の」地謡「山風吹き乱れ 散らせや散らせ 散り迷う 木の本ながら まどろめば 桜に結べる 夢か現か…」
この前に序の舞。ところで序の舞とは何をどう感じればいいのかと改めて思います。鼓のリズムに乗って、扇を持つ手を上げたり舞台を回ったりと単純な動作を繰り返す。むろん決して無駄とは思いません。ここまでのストーリーを整理して、主人公の気持ちを思いやる、というのが眼目なのでしょうが、この曲ではさしたる起伏もなく、思いあたる節もない。序の舞とは構成上の味付けなのか、全体のまとめなのか、今日の舞台は序の舞が良かったねなんて感想は果たしてあり得るのか、などと考えながらじっと見つめていました。



つづいてお能「鉄輪(かなわ)」。これは2回目で、前回見たのは5年も前。
 ・「鉄輪」 http://d.hatena.ne.jp/buppo/20090807

この時に宗教的な側面はずいぶんと整理していました(もう忘れていましたけど)。今回感じたのは、貴船神社の社人も、陰陽師安倍晴明も、まったく場当たり的な対処法しか示してくれないこと。なんとも冷たいなあ、魂の救済をしてくれないと、根本的な解決にはなりません。
シテ「それ春の花は斜脚の暖風を開けて 同じく暮春の風に散り 月は東山より出でて早く西嶺に隠れぬ 世上の無常かくのごとし 因果は車輪の廻るがごとく われに憂かりし人びとに たちまち報ひを見すべきなり」因縁生起の法にかこつけて、すさまじい恨み節。
地謡「悪しかれと 思はぬ山の峰にだに 思はぬ山の峰にだに 人のなげき(嘆・木)は生ふなるに いはんや年月 思ひに沈む恨みの数 積もって執心の 鬼となるも理りや」成り行きは分かっていても、怖さは前回より増していました。そこが生の舞台の面白いところです。