仏報ウォッチリスト

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 「熊野 聖地への旅」

和歌山県立博物館で世界遺産登録10周年記念特別展「熊野―聖地への旅―」を見ました。
熊野と聞いて思い浮かぶのは上皇の御幸と、庶民による蟻の熊野詣。けれどもそれらは歴史のほんの一齣にすぎません。展示は神話の時代から平成の作品まで扱っており、まさに時空を超えて聖地を旅する気分。並外れたスケールの中で、いくつものモチーフが姿を変えながら何度も現れます。たとえば、

  • 冒頭で川や滝など自然環境を崇拝するところから信仰が始まったことを示し、最終章では近年の自然災害の爪痕を紹介。
  • 神社としての信仰の特色を、古代は神像、中世は古神宝に代表させて提示。
  • 熊野三山の成立は11世紀後半の史料に見え、やがてその中の那智滝がシンボルに。
  • 平安期に始まる神仏習合・本地垂跡と、明治の神仏分離
  • 熊野参詣道の整備、先達と御師による参詣システム、そして王子社の発達。
  • 絵解きに使われる那智参詣曼荼羅は江戸時代製と平成19年製を展示。
  • 仏教は法華経信仰から阿弥陀信仰へ移行。展示物には熊野曼荼羅や伝一遍筆六字名号なども。

 展示品で目を引いたのは長保寺蔵「細字法華経」、目を凝らしても見えない小さな字で法華経阿弥陀経・般若心経ほかの経典を半切の一幅に破綻なく収めてあります。もう一つは、和歌山県立博物館蔵「熊野権現縁起絵巻」。絵巻は熊野権現のルーツがインドの王だというとんでもない設定で、上中下3巻を順に展示。王妃に嫉妬した女たちが寝室を襲撃する物騒な上巻の続きが気になるのですが、図録には全画面の図版が掲載されているものの絵解きはなくて、もどかしい。このためだけに3回の展示替えを通ってもいいかも。その他、近年の調査による新出資料を多数出陳。
熊野という一地域をめぐる宗教事情が、とりもなおさず日本の信仰の形態をあますところなく示してもいることを教えてくれる稀有な展示です。これまでの同館の特別展にも共通することですが、この会場に足を運んでこそ味わえるダイナミックな展覧会を堪能しました。

http://www.hakubutu.wakayama-c.ed.jp/kumano/frameset.htm