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「慈光寺」展

埼玉県立歴史と民俗の博物館で、特別展「慈光寺―国宝 法華経一品経を守り伝える古刹」を見ました。奈良時代の創建とされる埼玉県ときがわ町天台宗慈光寺の寺宝をずらりと揃えた展覧会。坂東札所第9番として知られる観音堂の本尊千手観音立像は秘仏のため写真パネルで紹介し、御前立ち像を展示。

展示の中心はこのたび修理が終了した「法華経一品経」です。これは驚きの美品。鎌倉時代と推定されるものの、詳細は不明の装飾経。各巻の意匠がまったく異なり、展示の右肩に「書写次第(書き手の名)/見返し/界線/本文」などが手短に提示されているのが親切です。見返し絵は花や僧侶、葦手などが目を引きます。料紙は天地の挿絵はもちろん、本文の背景を三分割したり、箔を撒いたりと小粋なセンスにうなります。中でも驚いたのは経文の行を区切る界線の工夫。棒線を引くにも書くのと截金を置くのとがあり、さらに境界線が1本、2重、3重のまであります。3本も入れて野暮ったくならない処理が見事。

修理直後なのに文字がほとんど読めないものもあります。これについて図録には次のような解説があります。「界線や経文部に真鍮泥が使われ…製作当時には珍しいもので、いわば最先端の顔料として使われた可能性がある…真鍮は銅と亜鉛の合金で比較的加工が容易とされるが、時間の経過とともに酸化・腐食しやすく、紙を傷め、剥落する…経の装飾のために使われた材料そのものが経を傷めることになったとすれば、残念なことである」。

33巻のうち6巻は当初の経が欠けて江戸時代の後補。簡素な作りが目立ちますが、中には金箔を散らしたものもあります。これも含めて国宝指定。

同展は一品経の全巻公開が売りとなっていますが、展示期間の関係からか前後半で半分ずつの出陳となっているのは残念。またスペースの都合もあって各巻が会場内にばらけており、国宝に包まれる感覚に浸れないのははがゆくもあります。それでも未展示の経巻はパネルで見せて、会場外には修理の様子を伝えるコーナーを設けるなど工夫が随所にあり、一品経にフォーカスした演出は十分に満足のゆくものでした。関東にこれだけのものがあることを地元は誇りにして、もっとアピールしていいと思います。