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仏報ウォッチリスト

ここは仏教の最新情報、略して《仏報》の材料をとりあえず放りこんでおく倉庫です。

「一遍聖絵」展

特別展「国宝 一遍聖絵」を見ました。3館共同開催のうち、遊行寺宝物館は行けず、神奈川県立歴史博物館に1回、巻き替えがある神奈川県立金沢文庫は2回、加えてサテライト会場の東京国立博物館に1回。
一遍聖絵は遺品の少ない一遍上人の生涯が分かる史料であると同時に、自然や建物や人物の描写に優れた見飽きぬ絵画です。全巻展示ということで日ごろ引用が多い場面だけでなく、ただの田園風景などもじっくり見られます。沿道の木々から田舎の畦道、家々の屋根などまで丁寧に描いているのに驚嘆。でもやはり魅力は群衆描写でしょう。僧侶や武士、庶民やホームレスも巧みに描き分け、踊り念仏のような運動する肉体の捉え方も正確。人物の寸法は思いがけなく小さいのに、その人物の心情までもが伝わってくるようです。
全12巻を4巻ずつ分けて展示されていることで、観覧者が分散したのか行列はなく、1館ごとの分量がほどよくて集中も途切れません。説明の労が軽減されたせいか、そのぶん各館の個性が出ているのも特筆に値します。歴博は阿弥衣・鉦鼓・持蓮華・他阿真教坐像・骨蔵器など立体の資料が目を引きます。金沢文庫は手持ちの聖教で手厚い補足。聖徳太子から高野山善光寺まで何でもござれで、いつもながら隙がありません。会場入り口で二河白道を紹介し、冒頭に六字名号を揃えたのが聖絵の世界への導入としてお見事です。東博はセットから流出した第七巻の展示がメインですが、他の巻を模本で見せてくれるのが親切。絵柄がハッキリしているし、本物の絹製と模写の紙製の違いもよく分かります。
あえて印象で分けるなら、暦博は墓参や鎌倉入りの一悶着などリアルな歴史のひとこまという趣が強く、金沢文庫は熊野本宮での神託久美浜の龍など奇瑞めいた場面が心に残ります。
図録はほぼ全場面の画像、釈文の原文と大意を掲載する親切な造り。さらに金沢文庫はオリジナル図録も作成。でもこれらさえあれば観覧しなくて済むかというと、やはり現物を見た後では写真はのっぺり見えて味気なく感じます。あくまで展示を見た後の確認資料といえます。
しかし、嬉しいことに図録には専門家が寄稿した論考とコラムを多数掲載。そのテーマから研究者というのはどんな点に注目するのかがおのずと知れて興味深いです。テーマをいくつか挙げると、神社と一遍の関係、熊野権現が山伏姿であること、踊り念仏の始まりは墓前での呪法ではないか、遊行を季節の移ろいで描写、画家は三度描かれる四天王寺の関係者か、など。一作品からこれほどの情報が読み取れるのかと驚くばかりでした。
大きな博物館一館で企画していたらおそらく総花的になっていたところを、所蔵先の地元で分散開催したことで初めて見えてきたものがある有意義な企画だと思いました。