仏報ウォッチリスト

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菊慈童・融

宝生能楽堂の銕仙会定例公演でお能「菊慈童」「融」を見ました。

「菊慈童(きくじどう)」は霊水によって七百年も生き続けている童子の話。その噂を聞きつけた時の皇帝が勅使を派遣すると、現れた童子がここにいるいきさつを語る。王の枕を跨いでしまったばかりに流罪になり、形見に渡された枕に記された文字を菊の葉に書きつけたところ、その葉からしたたる露が不老不死の薬になった。という昔話はただ語られるだけで、舞台は童子が祝福の舞いを見せるのが主眼。わりと舞台上の作り物は多いのにアッサリした印象。それもそのはず、現在の上演では前場そっくり省略されているのだとか。
 注目すべきは、書きつけた文句。「具一切功徳 慈眼視衆生 福聚海無量 是故応頂礼」と法華経普門品そのままの文言が使われています。周の穆王というと紀元前10世紀くらいの人で釈尊より古い時代ということになりますが、そこは中国時間ということで…。銕仙会ホームページの解説によれば、中世には天皇即位式で仏法を伝授するという作法がおこなわれており、その起源としてこの物語があるといいます。
 菊慈童は手元の謡曲集にないと思って手ぶらで行ったら、観世流以外では「枕慈童」という名で上演されるとのこと。なんだそれならと思って探しましたがこちらも掲載がありませんでした。

つづいて「融(とおる)」。これは筋書きを読むまで見たことがあるはずと思い込んでいましたが、初めてでした。
京都六条源融の邸宅跡である河原の院は塩竃の浦の風情を写したと汐汲みの老人が語る。入れ替わりに現れる融大臣の幽霊が月光を浴びて舞う、その情趣。
「…黛の色にみかづきの 影を舟にもたとへたり また水中の遊魚は 釣針と疑う 雲上の飛鳥は 弓の影とも驚く…」
そこになき塩、なき月をあるように見せるのがお能。歴史上の源融の栄華と無念、怨恨、哀愁がうごめきつつも、月の光がそれを静かに宥め鎮めてゆくようすが伝わってくる舞台でした。