仏報ウォッチリスト

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 異体字の世界

前項に続いて新年に読んだのは、
・『異体字の世界 旧字・俗字・略字の漢字百科
  小池和夫=著(河出文庫 07/7刊)
別に雑学を増やしたいわけではありません。漢字の字体というのは活字に関わる仕事をする者にとって深刻な問題なのですよ。
と同時に、私自身の苗字には本書で「三大人名異体字」と呼ばれている文字が含まれているので、けっして他人事ではないという現状もあります。
著者はJIS改正委員会の第三・第四水準漢字制定作業にも関わったそうで、その事情通が語る面白さが満載。勉強になったわあ。
とくにコンピュータをめぐる諸事情。漢字は常用漢字(教育)を文部省が、人名用漢字(戸籍)を法務省が、印刷文字(商工業)を通産省がそれぞれ担当しており(著者いわく「トロイカ状態」)、この三者でのキャッチボールはもしかして「千日手」ではないかと著者は述べます。
こういう状況がもたらす不利益は誰しもわかっています。じゃあこの役人たちが悪者なのかというと、
法務省は、戸籍のコンピュータ化にあたって、明らかな誤字を職権で訂正していく仕組みを模索していました。ところが、技術の急激な進歩は、誤字を誤字のまま際限なく取り込むことを可能にしてしまったのです。〉
ああ、元凶はそこだったか!
苗字の漢字の話に戻って言えば、〈「手書きと活字は違う」ということが常識として浸透していない〉のがいけないという。そうなのよ。本人はたいしてこだわりはなく、どっちだってかまわないし、日常生活でなんら不便はないのに、いったいどっちなんだ?と周囲が戸惑っているのがかえってつらい。でも専門家にこう言っていただくと、心が軽くなります。
本書には「漢字百科」の副題を裏切らぬ豊富な具体例が挙げられています。一つ一つは雑学のレベルなのかもしれませんけれど、その列挙を通じて、旧字体が必ずしも歴史的に古いわけではない、画数の少ない簡略な字が新しいとはかぎらないと知ってちょっと驚きました。
〈現在の常用漢字の形が日本の「正字」となってすでに六十年になろうというのに、いまだに旧字を「正字」と言い張る人たちがいます〉というご指摘は、おっしゃるとおりです。はい。