仏報ウォッチリスト

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 版と拓の美を見た

先日、日本民藝館の特別展「版と拓の美−摺る・写す−」(1/6〜3/23)を見てきました。これは面白い!
江戸期の仏教版画や御札、漢・六朝時代の石碑の拓本などを集めた展覧会。さすが日常品に美を見いだした同館のコレクションだけあって、素朴なぬくもりを感じる佳品ばかり。
現代の感覚では、手書き=オリジナルこそが大事で、それにひきかえコピーされた量産品は軽んじられがちです。ボタンひとつで複写する操作だけを思えばそのとおり。しかし、コピーの元となる原版作りでは、手書きにはない創意工夫が施されています。
〈(仏版画は)民間への大量の需要に応えるために、図様も大雑把で、簡略化された図像が多くなります。(中略)その厳かで神秘的な表現は、日本の版画史の中でも豊かな世界を示しています。またこれらは、仏教がいかに日本人の生活に深く浸透していたかを示すものともいえましょう。〉――同展解説から
不特定多数の視線を想定して作られるゆえの洗練といいましょうか、特定の師弟間だけで通じるような表現とは対極にある明快さが、本展の魅力だと思います。
それと、諸作品を見ていて印象的なのは、装飾の追加です。たとえば単色の版画にあとから施した彩色が味わい深い。展示品中の『涅槃図』なんて黒1色の版画に塗り絵をして(これはあらかた退色)、さらにお釈迦様の全身には金箔が貼られています。あるいは、拓本を凝った意匠で軸装するというのも、うれしいひと手間。それだけ珍重されてきた証しであり、さらに新たなオリジナルを目指す趣向でもありましょう。こういった後補を経て、いま眼前にあるというありがたみに心打たれます。
ここでいくつかの作品について忘れぬうちにメモ。

  • 版画「梵字不動」――その名の通り不動明王の体を梵字でデザイン。
  • 版画「利剣名号」――袋文字になっている六字の字面に小さな梵字の柄。
  • 版画「千手観音」――棟方志功氏寄贈品とのこと。千本の手の表現が圧巻。
  • 一遍上人筆名号」――左右に計100枚の賦算札を貼り込んであります。
  • 朱印仏「千体阿弥陀」――これは言わずと知れた『仏教百話』の表紙絵です。
  • 拓本「水牛山刻石経」――でかい。意外な場所に展示してあって驚きました。
  • 朱摺「金剛山楡岾寺仏典」――経文を梵字・ハングル・漢字とりまぜ縦組みに。

そのほかこまごました勧進札など多数展示。同時出陳として木喰仏5体も。居心地よいので、たっぷり時間をとって鑑賞してください。