仏報ウォッチリスト

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 花筐を見た

国立能楽堂お能『花筐(はながたみ)』を見ました。
越前で照日の前(てるひのまえ)と愛し合った皇子は皇位継承のために都へ。悲しみのあまり狂乱した女は男を追い、持参した思い出の花かごのおかげで再び召され、ハッピーエンド。
2人の女性が並んで登場。当然、花筐を提げているほうが主人公だろうと思ったら、実はそちらが侍女だとわかり、見ているこちらが半狂乱になりそうでした。
仏教的な要素はほとんどなし。地謡に1カ所「南無」と出てきます。〈南無や天照皇大神宮、天長地久と唱へさせ給ひつつ、御手を合させ給ひし……〉。合掌礼拝する対象は仏菩薩ではありません。なにせこの男性は継体天皇。仏教が公伝するのはこの天皇のご子息にあたる欽明天皇の御代ですから、正確な時代考証であるといえます。
なお、パンフレットの解説には、〈二人の仲が元通りになると正気に戻るため、シテの狂乱は皇子に近づくための方便〉との説もあるとか、〈夫から突きつけられた別れの象徴(である花筐)によって、再び元の地位を手に入れることに成功〉とか、ずいぶん意地悪な表現が続きます。そうなのかな。私にはもっと可憐でひたむきな女性に見えましたけど。