仏報ウォッチリスト

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 「鉢木」を見た

前項に引き続き、観世能楽堂お能「鉢木(はちのき)」を見ました。なぜこの暑い盛りに雪景色の作品なのかというと、年一回開かれるこの納涼能がテーマとして四季を順に設定してきて、今年は冬なのだそうです。汗を拭きながら着席したのに、寒くて凍え死にそうだという場面に思わず引き込まれます。舞台の力ですね。
雪道に難儀する旅の僧を泊める主人。泣けなしの粟飯でもてなし、大切にしていた植木鉢を火にくべる。「いざ鎌倉」の召集で二人は再会。諸国を巡歴していた最明寺入道北条時頼と、零落しても我先に馳せ参じる佐野源左衛門として。
直面で表情一つ変えず演じながら、歯を食いしばる武士の意気地がにじみ出ます。卑屈すぎず、滑稽にもならない真面目さが身上。
ポイントは、一夜の宿を求められて家計の困窮を理由に一度は断り、妻の言葉にハッとして考えを改めるところ。妻の言葉は、
「あさましや我等かように衰ふるも。前世の戒行つたなき故なり。せめてはかやうの人に値遇申してこそ。後の世の便ともなるべけれ」
単に気の毒だからではなく、私たちが来世のため功徳を積むのだというのです。してみれば、曲全体も主君への忠誠を説くことが主眼というよりも、おのれの生き方そのものを問うているという構造が見えてきます。
季節はずれとはいえ、我が身に響くタイミングで見せていただきました。