仏報ウォッチリスト

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 「近江路の神と仏」

三井記念美術館で特別展「琵琶湖をめぐる 近江路の神と仏 名宝展」を見ました。
滋賀県内42の社寺が所蔵する彫像・絵画・金工品など約100点を展示。必ずしも観光ルートにある社寺ばかりではなく、こうして東京で一度に拝める機会はきわめて貴重です。
展示は各分野の作品を偏りなく集めているのが特徴。仏教美術を一望できる幅広いラインアップで、逆に言うとそれが難なく実現できてしまうのが近江国の強みです。
仏像は制作年代ごとに並べ、十一面観音を小特集。私はほとんど初見で、いずれもあらかじめ写真で見ていた印象より小さく感じます。しかし小さいからガッカリするのでは決してなく、そのこまやかさ、あいらしさに改めて見入りました。
思いがけなく充実していたのが仏画です。これも目配りの利いたチョイスで、曼荼羅や涅槃図、来迎図など仏画の代表的な分野から1点ずつ展示しています。
本展に合わせて『イラストで図解 仏画』という小冊子を同館が発行していました。A5判16ページで300円、絵と文=向坂卓也。仏画7種が総ルビで簡潔に説明されています。無料配布でなかったのは残念ですが、決まり事がある仏画の理解を助ける試みとして注目に値します。
経典と絵巻がそれぞれ1点ずつ。紺紙金字妙法蓮華経は1巻を広げた横に巻物が無造作に9本置かれ、全8巻(うち1巻は開示)とやや短寸の開結2巻の全セットをすべて現物で見せているのが親切。なお、図録18頁に開経が「無量寿経」とあるのは「無量義経」の誤りです。
以上、ジャンルも時代もオールラウンドな、充実の内容でした。欠けているとすれば、禅宗美術くらいでしょうか。
タイトルに「琵琶湖をめぐる」とあるだけに、もっと旅情をかきたてるような仕掛けがあってもよかったような気がします。図録に「神体山」に関するコラムがあって、これこそ展示で見たかったと思いました。
とまあ、あれもこれも望むのは酷というものですが、あれこれ望みたくなるほどに近江の魅力を引き出してくれた企画であることは間違いありません。