仏報ウォッチリスト

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 古文書の展覧会

古文書の展覧会を3件見ました。

いずれも、ふだんは表舞台に出てこない地味な存在の古文書の価値をいかに伝えるかに力点を置いた企画で、その努力が好ましく伝わってきます。
日本史関連の展覧会には古文書がつきもので、これまでも折にふれて目にしてきました。けれどもたいていは何か歴史的な事実の証拠物件で、ほらここにこう書いてあると説明するキャプションを読めば事足りていました。ですから、古文書をまじまじと見たのはほぼ初めてと言ってもいいわけです。
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国立歴史民俗博物館「中世の古文書−機能と形−」は、古文書の基本的な見方を教えてくれる手堅い内容です。文書の役割は用件を伝達することと、記録として残すこと。そんな当然の事実に改めて気づかされます。
親切なパネル解説と展示品を熟読していたら、第1コーナーを曲がるまで30分を要して焦りました。とにかく古文書の魅力を伝えようとする工夫に共振して、一文字も逃すまいと思えてくる展示でした。Twitterで小耳情報を発信し続けていたのも印象的でした。
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神奈川県立歴史博物館「こもんじょざんまい−鎌倉ゆかりの中世文書−」は、さいわい展示替えの前後それぞれ訪れることができました。国立歴史民俗博物館が館蔵品を駆使していたのに比べて、こちらは各所から名品を借り出し、中世の有名人の花押がある文書におおッと思わせる仕掛け。字の巧拙や墨色などに言及しているのも特徴です。達筆にほれぼれしたり、歴史のひとこまに想像を働かせたり。
同じ県立施設に金沢文庫があるのが強みで、金沢貞顕の勢いある書面が見どころの一つになっています。かな文字文書を紹介するセクションがあり、親しい者に宛てた手紙には漢文の公文書にはないぬくもりを感じます。
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京都府立総合資料館「東寺百合文書展」は、京都東寺に百箱に分けて保存されてきた古文書類からごく一部の50点あまりを紹介。来春ユネスコ記憶遺産に推薦されることになっているこれらがどういうふうに価値あるのかを、絶妙な解説で教えてくれます。
たとえば弘法大師が唐から持ち帰った千粒以上の仏舎利の数を東寺住職が毎年数えて記録した紙片があります。この仏舎利の数がなぜか年々減っていて、表向きには「国土の盛衰に応じて増減する」とまことしやかにささやかれているそうなのですが、次に展示してある足利義満自筆書状では、私8粒、誰々に2粒…計18粒をおねだりしているのです。かくして歴史の事実は明るみに出るのですね。
ほかに貸出物のチェックの仕方や、年貢の食品リスト、徳政令を回避する工夫、戦勝祈祷の依頼状、僧侶の日常の仕事など、何げないけどこの記述がなければ後世に知り得なかったような貴重な内容が読み取れる文書なのです。展示物は必ず何らか東寺に関わっているので、軸がぶれず理解しやすいのがこの展示の特徴です。
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世間の関心からすれば古文書の展示というだけで始めからハンディキャップを背負っているようなものでしょう。そんな通例を跳ね返して知られざる古文書の魅力を引き出し、ふだんは添え物でしかなかった作品がメインステージに躍り出た、画期的な展示の揃い踏みでした。