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仏報ウォッチリスト

ここは仏教の最新情報、略して《仏報》の材料をとりあえず放りこんでおく倉庫です。

 「古代の仏教」

横浜市歴史博物館で企画展「古代の仏教 ー博物館収集資料を中心にー」を鑑賞しました。当館ほか横浜市立の博物館施設が所蔵・保管する文物で、仏教伝来から平安中期までの日本仏教史を紹介する企画。とはいえ京都・奈良ではない当地では資料は限られており、かなりアクロバティックな力技の構成となっています。たったこれだけの材料でよくまとめあげたなあと、妙な感動を覚えました。
第1章『敦煌の仏教絵画』は導入として釈迦如来や観音・地蔵菩薩など諸尊を紹介。ここの展示はオーレル・スタイン収集の敦煌仏画を掲載した1921年刊の印刷物だけで押し通します。図版一つずつに付けられた解説文は丁寧なもので、必要な基礎知識が得られ関心は高まります。
続く第2章『護国の仏教』では、仏教公伝を「日本書紀」の江戸時代の版本で示し、国分寺創建で「武蔵国分寺文字瓦」を見せた後、ここでなぜか藤原仲麻呂の乱の説明がパネル5枚も使って詳述されます。それは称徳天皇の百万塔造立発願を導くためで、当館所蔵の「木製三重小塔」と「陀羅尼」の展示と相成ります。聖徳太子も大仏建立もすっ飛ばして、百万塔。
しかし、この百万塔に付帯する資料が実に面白い。明治時代に法隆寺が財政難のため百万塔3000基を民間へ譲与(実際には962基を売却して基金は予定額に到達)。この1基を入手した個人の遺族が20年前の当館開館時に寄贈したというのですが、本体と共に、明治時代の譲与の際に一緒に届いた書類が完備しているのです。
本物を証明する「證」には法隆寺の公印が押されています。法隆寺寺務所発行の「百万塔譲与規定」からは、譲与品は遺存状態により4ランクに分けられ、値段も4段階あったことが分かります(展示品は第2ランク)。法隆寺管主佐伯定胤が執筆した「百万塔縁起」は本品の由来や頒布の趣旨を説明(展示では文面まで読めたのですが、図録は写真が小さくて読めないのが残念)。塔1基に1点ずつ収められている陀羅尼は全部で4種あり、おまけとして4種の複製「陀羅尼模本」を桐箱に入れて提供。「百万塔台座購入案内状」は日本美術院が百万塔を安置するために作成した台座を斡旋する写真入りチラシ(図録には掲載なし)で、展示品に台座が付属していないということは元所蔵者はこれを購入しなかったのでしょう。以上5点が本展最大の珍品です。展示はこのあと最澄空海の紹介に移るのですが、さしもの御大もすっかり霞んでしまっています。
第3章『ムラの仏堂』は異色で、当館にほど近い奈良〜平安時代の2つの遺跡から仏教施設の建物跡と小塔や仏鉢の破片が発掘されていることを紹介。つまり従来は仏教が民衆レベルに浸透するのは平安末〜鎌倉時代で、それ以前に仏教に関わっていたのは国家と貴族だけだったと説明されるのに、それをはるかに遡る時代から民衆に受け入れられていたことを示してみせるのです。この補強資料として展示されるのが「東大寺諷誦文稿」の複製品。平安初期の説教のアンチョコで、国立の大寺院の僧が地方で導師を務める際に使われ、国宝だった原本は戦時中に空襲で焼失、それ以前にコロタイプ印刷でコピーされていた100部のうちの1点です。もう一つ、「日本霊異記」の異本2種を展示し、中巻第五にある「撫凹村」「那天堂」などの記述から、同書の成立時(ちょうど前述の遺跡の時代)にムラの仏堂があったことを証明します。地味な展示ながら、ここには見逃せない企画者の主張が込められています。
第4章『来世を願う』は平安中期の浄土信仰を「往生要集」の版本や「十王像」で示します。保存状態の良い「紺紙金字法華経」は端正な字と見返し絵が見応えありますが、ムラの信仰が語られた後で何の説明もなくこれを見せられると、庶民の誰もがこんな写経をしていたのかなどと誤解を招かないか心配になります。
第5章『神仏習合八幡大菩薩』は小さな「八幡大神像」の掛軸と「八幡縁起絵巻」を出陳するものの、八幡信仰については「続日本紀」「将門記」「平家物語」等の江戸時代の版本を展示して引用することで説明。やや強引な印象で、もう少し何かないのだろうかと思わず代わって考えたくなります。近くに鶴岡八幡宮もあるのですし(隣の市ですが)。
まるで息切れたように展示はここで唐突に終了。たしかに「古代」と限定し、鎌倉仏教前夜までとなると、こうならざるをえないのでしょう。ならば続編「中世の仏教」も期待していいのでしょうか。なんにしても、さまざま驚かされ、そういう意味ではインパクトのある展覧会でした。

▼企画展「古代の仏教」横浜市歴史博物館 http://www.rekihaku.city.yokohama.jp/koudou/see/kikakuten/2015/kodainobukkyou/