仏報ウォッチリスト

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 聖地寧波展を見た

先週、奈良国立博物館で特別展「聖地寧波 日本仏教1300年の源流 すべてはここからやってきた」を見ました。
寧波(ニンポー)は中国の港湾都市。日本から大陸を目指した祖師方の多くはここへまず上陸し、日本へ流入する文化は主にここからもたらされました。この一点を行き交った人と文物を紹介する展覧会。
ふつう仏教に関する展示というと、まず宗派や時代を一つに絞ってテーマを設定するわけですが、本展では従来の固定枠を取り外し、代わりに寧波という場を軸に据える、するとそこに思いがけない関係性が浮かび上がってきます。おかげで私も拙い知識の断片があれこれつながってきて、歩を進めるたびに興奮しました。
そのつながりの様子をいくつか下に書き記しておきます。あくまで自分なりのメモなので、説明に欠ける点は何とぞご容赦ください。

寺院信仰僧侶文物
阿育王寺仏舎利鑑真
ちょう〔大+周〕然
重源
銭弘俶塔
延慶寺天台浄土教源信
寂照
十王図
仏涅槃図
月波寺水陸会志磐
俊じょう〔サ+仍〕
水陸画
普陀山観音恵萼
道元
一山一寧
水月観音
白衣観音
国清寺天台山巡礼最澄
成尋
栄西
五百羅漢
天童寺禅宗栄西
道元
雪舟
興禅護国論
普勧坐禅儀
こうしたつながりを文章でくどくど説明するのではなく、図像や史料といった現物でズバリと目に訴える、この説得力こそ博物館の真骨頂です。
当展に教えてもらったことを挙げればきりがありませんが、たとえば、前半に「重源上人坐像」があります。重源といえば東大寺大勧進、ですがここではその話題ではなく、〈重源は入宋すること三度(中略)阿育王寺では阿育王八万四千塔を拝して奇瑞を得た〉。そして〈阿育王寺舎利殿の建立ないし修理に際して、日本から周防国の材木や自身の木造を送った〉(以上、当展図録の解説より)といいます。つまり勧進職に先立ち、舎利信仰の人であったわけです。
道元禅師の名が二か所に出てきます。禅の印可を得た天童寺は当然として、帰国前に普陀山に巡拝しているのだそうです。道元の教えに接する上でこの観音信仰はわりと大切なのじゃないでしょうか。
もう一人、最後に登場する雪舟。事前にチラシで見たときは本展との関連がよくわかりませんでした。たしかに雪舟は中国で水墨画の技術を学びました。しかしそれは決してアート修業でふらり渡航したわけではなかったのです。〈京都五山の禅僧が任じられるのを原則としていた〉遣明使の一員としてであり、相国寺出身の禅僧であった雪舟にとって〈この上ない名誉なことだったようで(中略)しばしば誇らしげにこの「四明天童第一座」の署名の肩書きを用いた〉(同前)と知ると、展示された雪舟作品の見え方が一味違ってきます。
はるばる訪れる機会をもてて本当に良かったと思う充実した内容でした。