仏報ウォッチリスト

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 「重衡」を見た

国立能楽堂お能「重衡(しげひら)」を見ました。南都の寺々を焼き払った不届き者。その霊の苦悩を描く修羅能です。
初めに老人が奈良の名所を案内。東大寺大仏殿、西大寺法華寺興福寺、不退寺……これが実は重衡の亡霊で、自分が焼失させた伽藍をたどっているのです。ということは、この舞台が設定した時代にはすでに諸寺が再建されている。つまりこの人物が背負っている重荷は、仏教施設を損壊した懺悔とともに、復興に心を砕いた者たちに対する自責の念でもあるわけです。
後半は回向に導かれて甲冑姿の重衡が登場。火を放ったのは父清盛の命令に背けなかったからだと告白。橋掛りから見つめる火炎は「飛火野」の由来であり、「妄執」「瞋恚」の炎でもあります。
重衡はすでに生前から我が罪を悔やんでおり、処刑の場では阿弥陀像と手と手を紐で結び祈ったといいます。ただ極悪人として断罪するのではなく、人の罪とその赦しを深く見つめた作品。
30年ほど前に発掘された復曲能なので、当日購入したパンフレット以外に資料なし。しかも今回は蝋燭の灯りだけの上演で、その暗さは風情はあるものの、耳で聞いてわからない詞章をその場で確認するすべがなくて正直とまどいました。