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「一休」展

五島美術館で、特別展「一休 とんち小僧の正体」を見ました。担当学芸員の名児耶明先生が講演する時間に合わせて訪館。展示を見る前に特別展の意図を聞けたのは有意義でした。

お話は図録の論考「一休の墨跡」と重なる内容ですので、ここから引用する形でまとめると、
・一休の墨跡の現存品は桁外れに多い。ある調査で378点。次に多い夢窓疎石でも162点。
・茶会の掛物の記録を調べると、江戸時代に入って一休の墨跡が使われることが増える。それも一行書。
・江月宗玩による鑑定コメントは八割方が、怪しいとか偽物など。
・書かれた年齢を整理すると、勢いあふれる字は60代で、晩年の80代は和らいで落ち着いている。誰もが一休らしいと感じて人気があるのは60代の書風。

つまり、一休の人気上昇に乗じて60代の書きぶりを真似た一行書の贋作が量産されていったということ。だからそのたぐいは今回の展示から一切外したというのです。ただし真珠庵の「諸悪莫作/衆善奉行」は4字ずつ対の2幅の対聯だから例外、「初祖菩提達磨大師」は祖師号なので一行書とは別物という判断だそうです。

展示の冒頭は、掛け軸の一休宗純像がずらり。現存22点のうち19点を集めた(展示替えあり)というのですから恐れ入ります。ここで注目すべきは肖像画ではなく、その上に記された自賛です。ゆかりの寺に伝わる頂相に記された文章ですから、自筆を疑う余地はありません。これらを年代で追うと上述の60代と80代の特徴が明白です。

続いて圧巻は、号を与えた証書5点。大きく道号や軒号の2字が書かれ、その下に説明書きの小文字、末尾には日付と署名。大小の字の書き分けが見てとれると共に、内容も雀の死を哀れむとか、童女に与えたものなど奮っています。

梅画賛も贋作が多いジャンルだといいます。展示品の梅画は文面と筆跡の同じものが上記の2字書の中にあり、同じ日に書いた可能性もあるとか。ちなみに虚堂智愚を描いた絵が梅花像と呼ばれ、その虚堂の肖像に一休が自分は虚堂七世だと記している頂相も展示中。

同じ文言の遺偈が2点あり、片方だけ重文。ほかに著書や本人使用と伝えられる沓・笠・袈裟など。

この展覧会のテーマは2つ。まず上に挙げた一休の書についての考察。そしてもうひとつは、とんち話を虚像として検証すること。たまたま部屋の大きさでそうなったのかもしれませんが、没後のとんち話は第2会場にまとめて厳格に区分しています。説話集や講談本から近年の絵本まで、よくも集めたと思える資料の数々。ちなみにとんち話の主人公が小僧として描かれるのは意外に新しく、明治中頃以降とのこと。

虚像をただの作り話と切り捨てるのではなく、これもまた一休の大事な要素として扱われているのに好感が持てます。風狂で反骨精神の旺盛な実像の中にすでに、日頃から尾鰭がつきそうなふるまいがあったのかもと想像せずにはいられません。