仏報ウォッチリスト

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花月・杜若・雲雀山

国立能楽堂で金春会定期能を見ました。演目はお能花月」「杜若」「雲雀山」。

花月(かげつ)」は、7歳の子が行方不明となるお話。憔悴して出家していた父親は、成長して清水寺で芸人となっていた息子を発見、聞くと天狗にさらわれて諸国を巡っていたといいます。感動的な再会の物語とともに、少年の芸を見せるのが眼目。小歌をうたい、弓を射るしぐさを見せ、曲舞を舞い、羯鼓を打つ。短い上演だが盛りだくさん。子と共に帰って行く父親は、「連れ参らせて、仏道の修行に、出づるぞ嬉しかりける」と述べていました。

「杜若(かきつばた)」は2007年7月以来2度目。杜若の精が成仏を遂げる。冒頭で僧に「草木心なしとは申せども……あら美しの杜若やな」と言わせておいて、結びで「花も悟りの心開けて……草木国土悉皆成仏の御法を得て」としめくくります。男女の恋を語る伊勢物語の主人公在原業平は、ここでは歌舞の菩薩とあがめられ、仏法の種とならぬものはないと思わせます。

「雲雀山(ひばりやま)」は初見でなおかつ謡曲が手元にありません。資料によると、右大臣豊成が讒言を信じて娘の中将姫を殺せと命じるも、乳母の侍従がかばって山中にかくまいます。姫でも父親でもなく、この乳母を中心に物語が進行するのが斬新。それにしても登場人物は多いのに、乳母が舞を見せる時間だけが長い。豊成が我に返って改心するにはそれだけの時間が必要だったのかもしれません。ところでこの物語は中将姫について何か「当麻」に通じる伏線はあるのでしょうか。どうもまったく別の作品と考えたほうがよさそうです。