喜多能楽堂でお能「当麻(たえま)」を見ました。『死者の書』などでおなじみの中将姫と当麻曼荼羅のお話。春彼岸の中日、当麻寺を参詣した念仏僧の前に現れる化尼と化女は、実は阿弥陀如来と観音菩薩。続いて現れた中将姫の舞がクライマックスです。
キーワードは、曼荼羅を織り上げる「糸」でしょうか。
「……いろいろさまざま所々の法の見仏聞法ありとも それをもいさやしらいと(知らず/白糸)の ただ一筋ぞ一心不乱に南無阿弥陀仏」
「……草木国土成仏の色香に染める花心の 法の潤い種添えて 濁りに染まぬ蓮の糸を 濯ぎて清めし人の心の 迷ひを乾すはひざくらの 色はえて懸けし蓮のいとざくら」
なお、劇評家の渡辺保氏は、この演目にはドラマがないから面白くない、と切り捨てています(『能ナビ』p.296)。取り付く島もない言われように半ばうなずきながらも、2時間の舞台に付き合って何が見えたのだろうかと今更ながら考え込んでいます。